• 162.50 KB
  • 2022-06-16 13:10:43 发布

日本民间故事精选55篇(日文).doc

  • 59页
  • 当前文档由用户上传发布,收益归属用户
  1. 1、本文档共5页,可阅读全部内容。
  2. 2、本文档内容版权归属内容提供方,所产生的收益全部归内容提供方所有。如果您对本文有版权争议,可选择认领,认领后既往收益都归您。
  3. 3、本文档由用户上传,本站不保证质量和数量令人满意,可能有诸多瑕疵,付费之前,请仔细先通过免费阅读内容等途径辨别内容交易风险。如存在严重挂羊头卖狗肉之情形,可联系本站下载客服投诉处理。
  4. 文档侵权举报电话:19940600175。
目录1『船幽霊(ふなゆうれい)』12『姥(うば)っ皮(かわ)』23『狐(きつね)の嫁入(よめいり)』34こんでちょっきり一昔。『人影花(ひとかげばな)』45『とっ付こうか ひっ付こうか』56『おまん狐(きつね)』67『元取山(もとどりやま)』78『山(やま)におった鯨(くじら)』810『ネズミの彫(ほ)りもの』1111『尻尾(しっぽ)の釣(つ)り』1212『自分(じぶん)の頭(あたま)を食(く)った蛇(へび)』1313『鳶(とんび)不幸(ふこう)』1414『夢(ゆめ)合(あ)わせ』1615『亀(かめ)の甲(こう)ら』1716『鬼(おに)の田植(たうえ)』1817『狐(きつね)の玉(たま)』1918『ねずみ経(きょう)』2019『奥方(おくがた)に化(ば)けた狐(きつね)』2120『猿(さる)の生(い)き肝(ぎも)』2221『小三郎池(こさぶろういけ)のはなし』2322『味噌買橋(みそかいばし)』2423『豆と炭とワラ』2524『狼(おおかみ)の眉毛(まゆげ)』2625『頭の池』2726『きのこの化け物』2827『吉四六(きっちょむ)さんの物売り』2928『モグラの嫁入(よめい)り』3130『目ひとつ五郎』3331『骨をかじる男』3433『月・日・雷の旅立ち』3734『腰折(こしお)れ雀(すずめ)』3835『風の神と子供』3936『ダンゴ ドッコイショ』4037『死神様(しにがみさま)』4140『継子(ままこ)のイチゴとり』4541『娘(むすめ)の助言(じょげん)』4642『最後のうそ』4843『そこつ そうべえ』4844『絵姿女房(えすがたにょうぼう)』5045『飴(あめ)は毒(どく)』5146『一寸法師(いっすんぼうし)』5247『古屋(ふるや)のもり』54 48『黄金(きん)の茄子(なす)』5649『ばくち打ちと天狗(てんぐ)』5750『ぼた餅(もち)ときなこ餅の競争』5851『しばられ地蔵(じぞう)』5952『大工(だいく)と鬼六(おにろく)』6053『おしずとたぬき』6254『鬼と刀鍛冶(かたなかじ)』6355『文福茶釜(ぶんぶくちゃがま)』641『船幽霊(ふなゆうれい)』―千葉県― むかし、ある年のお盆の夜のこと。ある浜辺から、一隻(いっせき)の船が漁(りょう)に出掛けて行った。 その晩は、風も静かで、空にも海にも星が輝き、まるで、池みたいな凪(なぎ)きじゃったそうな。 沖へ出て手繰(たぐ)り網(あみ)を流すとな、沢山(たくさん)の魚が掛かってくるんだと。 「『盆暮に船を出しちゃあいけねえ』なんて、誰が言い出したんだ!そんなこたぁねぇ、見ろ、この大漁(たいりょう)をよお」 「そうじゃあ、そうじゃあ」 はじめは恐(おそ)る恐るだった漁師達も、いつにない大漁に気が大きくなって、夢中で網を手繰っていた。だから、いつの間にか星が消え、あたりにどんよりした空気が漂(ただ)よってきたのを、誰も気付かなかった。 突然、強い風が吹いた。 海はまたたくまに大荒れになった。 山のような三角波(さんかくなみ)がおそって来て、船は、まるで木(こ)っ葉(ぱ)のように揺(ゆ)れた。 漁師達は、流していた網を切り、死にもの狂いで船を操作(そうさ)した。それは、漁師達と海との戦いじゃった。 どれくらい経ったろうか。先程(さきほど)まで荒れ狂った海が嘘(うそ)のように治(おさ)まり、漁師達が疲れきった身体(からだ)を横たえている時だった。 朽(く)ちかけた大きな船が、音もなく近寄って来た。 そしてその船から、人影(ひとかげ)もないのに、 「お―い、あかとりを貸してくれぇ。あかとりを貸せぇ」と、何とも言えない不気味(ぶきみ)な声が聞こえてくるんだと。 ”あかとり”と言うのは、船底(ふなぞこ)の水を汲(く)み取るひ杓(しゃく)のことだが、  あまりの怖(おそ)ろしさに、唯(ただ)もう逃げたい一心(いっしん)で投げてやった。 すると、その”あかとり”で、漁師達の船の中に水をどんどん汲み入れてくる。 「しまった。これぁ船幽霊(うなゆうれい)だ。見るんじゃねぇ、早く逃げろ」 漁師達の船は水浸(みずびた)しになりながら、それでもかろうじて浜へ帰って来た時には、魂(たましい)の抜(ぬ)け殻(がら)みたいじゃったそうな。 このことは、漁師仲間に一遍(いっぺん)に伝わった。 それからと言うもの、お盆の日には、決して漁に出るものが無くなったそうな。2『姥(うば)っ皮(かわ)』―新潟県― むかし、あるところに、大層気だての良い娘がおったそうな。 娘の家は大変な分限者(ぶげんしゃ)での、娘は器量(きりょう)も良かったし、まるでお姫様のようにしておった。 じゃが、夢のような幸せも永(なが)くは続かないもんでのぉ、可哀(かわい)そうに、母が、ふとした病(やまい)で死んでしもうた。 しばらくたって継母(ままはは)が来だがの、この継母には、みにくい娘がいたんじゃ。 なもんで、継母は、器量の良い娘が憎(にく)くてたまらんようになった。 事(こと)あるごとにいじめてばかり。 父も、これを知っていたが、継母には何も言えんかった。 それで、可哀そうだが、この家においたんではこれからどうなるかも知れんと思ってな、お金を持たせて、家を出すことにしたんじゃ。 乳母(うば)もな、 「あなたは器量もいいから、よっぽど用心(ようじん)しなければ危ないことに出逢(であ)うかも知れんから」と、言って、姥(うば)っ皮(かわ)という物をくれた。 娘は、それを被(かぶ)って、年をとった婆様(ばあさま)の姿になって家を出た。 こうして、娘はあちらこちらと歩いているうちに、ある商人の家の水くみ女に雇(やと)われることになったそうな。 娘はいつも姥っ皮を被って働いた。 風呂(ふろ)に入る時も、家中の者が入ったあとで入ることにしていたので、それを脱(ぬ)いでも誰にも見つけられんかった。 ある晩のこと。 娘がいつものように姥っ皮を脱いで風呂に入っていると、ふと若旦那(わかだんな)が見つけてしまった。さあ、それ以来若旦那は、一目(ひとめ)見た美しい娘のことが忘れられん。とうとう病気になってしまった。医者でも治(なお)らんのだと。大旦那が心配して占師(うらないし)に占ってもらった。 すると占師は、 「家の内に気に入った娘があるすけ、その娘を嫁にしたら、この病気はすぐに治ってしまうがな」と、言う。  大旦那はびっくりして家中(いえじゅう)の女という女を全部、若旦那の部屋へ行かせてみた。が、気に入った者はなかったんじゃと。 最後に、大旦那はまさかと思いながら、水汲(く)み婆さんを若旦那の部屋へ連れて行った。 すると、若旦那はすぐに見破(みやぶ)っての、姥っ皮をとってしまったんじゃ。 中から、それは美しい娘が現(あら)われたもんで、家じゅう大嬉(おおよろこ)びでの、 娘は、その家の嫁になって、いつまでも幸せに暮らしたそうな。 いちがさあけた どっぴん。3『狐(きつね)の嫁入(よめいり)』―山梨県―むかし、と言っても、つい此(こ)の間(あいだ)。そうさな、五十年ほど前だったろうか。 山梨の金山(かなやま)っちゅうところに、炭焼きの爺(じ)さまがおっての。 爺さまは、山で炭焼いてそれを町へ売りに行ってたんだが、町からの帰りに山道(やまみち)に差しかかったんだと。 あったかい風がフワフワ吹いて来て、なんだか、きみのわるい晩だったそうな。 「はて、おかしいな」と、思って、ヒョイと前の方を見たら、きれいな娘が提灯(ちょうちん)を持ったお供(とも)を連れて歩いている。 「こら、いいあんばいだ。あの提灯に連いて行こう」と、急ぎ足で歩いたが、間(ま)が縮(ちぢ)まんないんだと。それなら、と、今度は走ってみたけれども、やっぱりおんなじに離れている。 「お、こら不思議じゃねぇか。ことによると、あら狐(きつね)だかも知んねぇ」 暗闇(くらやみ)を透(す)かしてよおく見たら、お供の尻(しり)っぺたから、でっかい尻尾(しっぽ)が出てブラブラしているんだと。 爺さまはおかしくなって、 「おおい、その尻尾、まちんとひっこませや」と、言ったら、すぐ半分(はんぶん)程(ほど)引っ込んだ。 「おおい、化けるのなら、まちんと上手に化けれや。そげな化け方していると、ほれ、つかめえちゃる」爺さまがおどけて手をのばすと、娘狐はたまげて、一声鳴(な)いて逃げて行ったんだと。 お供狐も提灯をおっぱなして逃げて行ったんだと。 「おや、狐の提灯とは珍(めず)らしい」 爺さまは、それを拾って帰ったんだと。次の日、夜更(よふ)けに戸をたたくもんがいる。 戸を開けてみると、きれいな女が立っていたそうな。 「夕べの提灯、どうか返してくんなせ」  「うんにゃ返せねえ。おめえ、狐けえ。この提灯、珍しいから大事にとっておこうと思っている」 「おら狐だ。娘を嫁にやるのに、今夜その提灯がいるんです。どうか返してくんなせ」 爺さまは可哀(かわい)そうになって返してやったと。 その晩の夜中に狐の嫁入(よめい)りがあっての、提灯が、いくつもいくつも揺(ゆら)めいて、それはきれいだったそうな。4こんでちょっきり一昔。『人影花(ひとかげばな)』むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な婿(むこ)どんがおって、いとしげな嫁ごと暮らしておったそうな。 そのころはまだ鬼(おに)がおっての、ときどき里に下りてきては悪さをしておったと。 ある日、婿どんが仕事で遠くへ出掛けたそうな。 そしたら、そこへ鬼がやって来て嫁ごをさらって行ってしまったと。 何日かして、婿どんが家へ戻ったら嫁ごがおらん。 「この仕業(しわざ)は、東の鬼ヶ岳に棲(す)むという鬼のせいにちがいない。こりゃあたいへんじゃあ」 婿どんは、青くなってさがしに出掛けたそうな。 川を渡っては、「東の鬼ヶ岳を知らんかぁ」 山を越(こ)えては、「東の鬼ヶ岳を知らんかぁ」 三年たって、ようやく東の鬼ヶ岳に着いたと。 鬼ヶ岳は、剣(けん)の先っぽみたいな岩が積み重なった、けわしい山だったと。 婿どんは、なんども落ちそうになりながら、ようよう、山のてっぺん近くにある鬼の館(やかた)に着いた。 そして、館の門に立てかけてあった鉄棒(てつぼう)で、地面を三度、ドン、ドン、ドンとたたいてみたそうな。そしたら、何と、館の中からいとしげな嫁ごが出て来ての、夢かとばかりに喜んだと。 鬼共は、みな、出かけていなかったそうな。 嫁ごは、婿どんに、 「これは一年酒、これは二年酒、これは三年酒」と、酒とごちそうをふるまったあとで、鬼の頭領(とうりょう)が大切にしている宝の刀を持たせての、婿どんを、空(から)のカメの中に隠(かく)まってやったと。 ところが、この鬼の館には、アスナロという、不思議な花があって、人間の、男がいれば男花、女がいれば女花が、その人影(ひとかげ)だけ咲いて鬼に報(し)らせるのだそうな。 夜になって、鬼の頭領が手下の鬼どもを従(したが)えて帰って来た。そしたら、花が一つ咲いている。 「人間の男が一人いるな」と、目を光らせてさがそうとしたと、 嫁ごは、<ハッ>としたがの、 「そ、それは、私のおなかに男の赤ん坊ができたからでしょう」と、すまして言ったそうな。 鬼どもは、それを聞いて喜んでの、お祝いの酒盛(さかも)りになったそうな。 嫁ごは、ありったけの酒を飲ませて、鬼どもを、みな、酔(よ)いつぶして寝かせてしまったと。 「もう、いいよ」と、嫁ごが声を掛けるとの、婿どんがカメの中から出て来て、宝の刀で、鬼の首を、チョン、チョン、チョンと、みな切ってしまったと。  婿どんと嫁ごは、鬼の館から宝物を運んで帰り、一生、仲よく 安楽に暮らしたそうな。 そいぎぃの むかしこっこ。5『とっ付こうか ひっ付こうか』―山口県― むかし、あるところにお爺(じい)さんとお婆(ばあ)さんが住んでおったそうな。 あるとき、お爺さんは、山へ木を樵(き)りに行った。日暮れになってもカキンカキン樵っておったら、山の中から、 「とっ付こうか、ひっ付こうか」という声が聞こえてくるんだと。 お爺さんは、ああ気味悪いと思ったけれども、知らぬ顔して木を樵っていた。 するとまた、 「とっ付こうか、ひっ付こうか」と、言ってきた。<こんだけ年を取ったんじゃ。何が来ても、ま、恐れることはない」 こう思って、 「とっ付きたきゃあ、とっ付け。ひっ付きたきゃあ、ひっ付け」と、言った。 そしたら、身体(からだ)が重く重くなって来たと。 「こりゃおかしなことじゃ。何がひっ付ただろうか、ひどく重たくなってきよった」と、やっとこさで家へ帰って来た。 「婆さんや、何か知らんがこんなにたくさんついたが、まあ、見てくれ」 それで帯(おび)をといて見たところが、小判(こばん)がいっぱい身体にひっ付いている。 「ありゃ、こげなええ物がひっ付いて。良かったのお、お爺さん」 「ほんに、のお、お婆さん」言うて、二人で喜んでその小判をむしり取ったと。 ところが、それを隣(となり)の欲深爺さんが見て、次の日、雨が降るのに山へ行った。 真似(まね)をして木を樵っていると、日が暮れた頃、 「とっ付こうか、ひっ付こうか」と、聞こえて来た。 これだ、これを待っていた、と、 「とっ付きたきゃとっ付け、ひっ付きたきゃひっ付け」と、言い返した。すると、ほんとに身体が重くなって来た。こりゃまあ、ごつい小判がひっ付いたぞ、一枚でも落しちゃあならんと思って、そろりそろり歩いて戻った。 「婆さんや、まあ見てくれ。わしにも重たいほどひっ付いたで」 「そうかえ、どれどれ」と、婆さんが、まきの火を近づけてみると、何と、爺さんの着物に松やにやら、蛇(へび)やら、みみずやらが、いっぱい付いていた。  びっくりした婆さんが、おもわず火のついたまきを落したからたまらん。松やにに火がついて、欲深爺さんは身体中(からだじゅう)火だるまになって、とうとう死んでしまったそうな。 これきりべったり ひらの蓋(ふた)。6『おまん狐(きつね)』―福島県―はァ、ちっとばか昔の話じャ。 ある山奥に、まわりを峠(とうげ)に囲まれた里があってャ、稲刈りも終って、はァ、北風の吹きはじめる頃だったとョ。 馬の背ェで峠を越えた花嫁が、ススキの原っぱをポック、ポックと突っ切っとるとセ、青白い光が、ボオッ、ボオッとしてたけんど 行列ン衆(しゅう)は、 「また、峠のおまん狐(きつね)がよだれェたらしてるのセ」と、気にも止めんかったとャ。 せえがら、すっかり日も暮れる頃にャ、花嫁行列は里についたとセ。 いいお月さんが、山の端(はし)に出た時にャ、村中総出の祝言(しゅうげん)がはじまったとェ。 ところがセ、祝言も半(なか)ばんなって、いよいよ三三九度(さんさんくど)の盃(さかづき)ってときに、何んと、花嫁の顔が狐になっておったとョ。 みいんな、オロオロするばっかりで、仲人(なこうど)さまが、 「おまん狐の仕業(しわざ)だで、とっつかめえろ!!」ちゅうたが、みんなポカ―ンとしとって、逃がしてしもうたとョ。 「本物の花嫁は、どこたべな」とて、提灯(ちょうちん)下(さ)げて探したら、ススキの原っぱで、ソバ喰(く)うまねしてツルツル。まんじゅう喰うとてパクパクしてたとセ。 せえがらまァ、花嫁の眼ェさまさして、何んとか祝言すませたが、そりゃあ、おお事たったとョ。 峠に逃げて帰(けえ)ったおまん狐は 「酒が呑(の)めんで残念だァ」とて、隣村のお七(しち)という、化け上手、騙(だま)し上手の狐に弟子入りして、修行(しゅぎょう)をつんだとセ。 次の年のことよ。 ススキの原が真っ白んなると、おまん狐は花嫁行列を待っとって、また、化けることにしたとャ。 ”ボワ―ン” 修行をつんだで、花嫁の化け方ァ、それは見事だったてャ。 せえがら、祝言のご馳走(ちそう)、たあ―んと喰って、ホクホクしとったがャ、根(ね)ェが酒好きとて、ガボガボ呑(の)んで、またまた、しっぽを出してしもうたとョ。 去年(きょねん)の今年(ことし)たで、村ン衆は、「こん畜生(ちくしょう)」と、ぶっかかったてがャ、おまん狐は何んとか逃(の)がれたとョ。 んでもセ、酔っぱらっちまって頭もまわらねェ。逃げに逃げて、ひょっと見たりゃ、別の峠を越えちまったとョ。 その峠はな、夜逃(よに)げもんとか、家出もんとかが越えっと、二度とこの里に戻ってこれんという峠だったのセ。  せえがらは、山の青白(じれ)ェ狐火(きつねび)も、見られんようになったでやんすョ。  ざっと昔さけぇた。7『元取山(もとどりやま)』―富山県―むかし、ある山にほら穴があってな、麓(ふもと)の村の者は、このほら穴から、お客用のお膳(ぜん)やお椀(わん)を借りとったそうな。 ほら穴の前で、ポンポンと手を打って、 「ほら穴さま、ほら穴さま、お願えします。お膳五人前、お椀五人前、借してくんなせぇ」と、願(ねが)えば、次の朝にはちゃあんと揃(そろ)えてほら穴の前に置いてある。用が済んだら、きれいに洗って返しておくきまりなんだと。 ある時、欲張(よくば)り爺(じい)さがお膳とお椀を借りたそうな。用が済んでも返すのをいちにち延ばしにしとる。 あんまりきれいで品物(しなもの)がいいものだから、 「こら、返さんで、俺(おら)のものにしよう。こんげにいい物、分限者(ぶげんしゃ)でも持っていねえ」と、とうとう返さないでいたんだと。 そうしたら、今度、村の者がいっくら頼(たの)んでも、ほら穴から、お膳もお椀も出て来なくなってしまったと。 「こら、誰かほら穴さまを怒(おこ)らせた者がいるな」 村中大騒ぎになった。が、欲張り爺さは知らん顔 やがて、秋になって米が穫(と)れた。欲張り爺さは、馬に米俵(こめだわら)をつけて町へ売りに行った。 すると、どうしたことか、馬は、町へは行かず、山へ行くんだと。 「そっちでねぇや、町へ行け」と、いっくら綱(つな)を引っ張っても、馬は山の方へ、山の方へと行くんだと。その内、馬は、ほら穴のところへ来て勝手に中に入って行ってしまった。 欲張り爺さは、前の事があったもんだから、恐くって、ただ穴の前でおろおろするだけなんだと。 すると、穴の奥から、 「アハハハハ」「オホホホホ」と、いくつも嘲笑(あざわら)う声がして、 「お膳とお椀の替わりに、この米をもろうておく。これで元が取れた」 こう言ったそうな。 それからじゃ、このほら穴のある山を、元取山(もととりやま)と言うようになったのは。 元取山とほら穴は、今でも、富山県の福岡町にあるそうな。 これでパッチリ 柿の種。8『山(やま)におった鯨(くじら)』―岐阜県― この紀州(きしゅう)の国(くに)じゃのう、昔から十一月の七日は、山の神さんのお祭りじゃゆうて、猟師(りょうし)も木樵(きこり)も決して山には入らんもんじゃった。 というのはの、その日ィは、神さんが春に植(う)えなさった山の木ィを一本一本数えて回わるゆうてな。虫喰(むしく)いがなんぼ、立ち枯れがなんぼちゅうて、神さんえらい忙(いそが)しいさかいに、山におると、人でも何でも、まちごうて木ィといっしょに数え込んでしまうそうや。 ずっと昔、まだ鯨(くじら)が海でのうて、山に棲(す)んどったころの話や。 ある年の十一月七日のこと。 山の神さん、朝からせわしのう木ィを数えておらしたと。 「兎山(うさぎやま)の木ィも今年は立派(りっぱ)やし、むじな谷の木ィも上々や。はてさて、鯨山はどないやろ」 山の神さん、ほくほく顔で鯨山まで来なさった。するとどうじゃろう。木ィという木ィが根こそぎ横倒(よこだお)しになっとった。まるで嵐(あらし)にでも会(お)うたようじゃったと。 「こりゃ、いったい何としたことや。鯨、鯨、おまえまた大あばれしょったな」 神さん、えらい怒ってゆうたそうや。 すると、鯨が、小さい目ェに涙いっぱいためて言うにはな、 「こないに図体(ずうたい)が大きゅうては、あくびひとつで枝は折れるし、くしゃみふたつで木ィが飛ぶし、どないもこないも・・・。えらいすまんことです」 あんまり鯨が泣くもんで、これには山の神さんもほとほと困ってしもうた。 「そうか、そうか・・・。おお、ええことがあるわい。ひとつ海の神に頼んでみよう」 そう言うて、一番高い山に登ると、大(おっ)きな声で怒鳴(どな)ったそうや。 「おおい、海の神よ―。わしんとこの鯨、おまえの海で預かってくれんかの――」 すると、しばらくしてはるかむこうから、海の神さんの声や。 「おお、よかろう。なら、ちょうどええ。こっちもひとつ頼みじゃ。わしんとこの猪(いのしし)が、海の魚荒しまわって困っとる。おまえの山で預かってくれんかの――」 その頃は、猪も海におったんやと。 こうして、二人の神さん相談(そうだん)してのう、鯨と猪をとりかえっこしょったそうや。 それからちゅうもんは、鯨は広い海でゆうゆう暮らすし、猪は猪で山でガサゴソ暮らすようになったちゅうことや。 そやさかいに、今でも鯨と猪は、よう似た味のするもんやそうな。 こんでちょっきり ひと昔。9『身投(みな)げ石(いし)』―大分県― 今から、ざっと四百年ほど昔、天正(てんしょう)といわれた時代のこと。 豊後(ぶんご)の国(くに)は木付城下(きつきじょうか)、八坂(やさか)の庄(しょう)に<岡(おか)の殿(との)>という豪族(ごうぞく)が住んでいたそうな。 <岡の殿>には、大層美しい姫がおった。 ところが、ふとしたことから、姫は重い病にかかってしまった。 「姫が不憫(ふびん)でならぬ、何としてもなおせ」  しかし、どんな薬も効(き)かないのだと。 姫の病気は、日に日に悪くなるばかり。 そんなある日のこと。 どこからか、一人の坊さまがやって来て、岡の殿に進言(しんげん)したそうな。 「不治(ふじ)の病には 黒い花の咲く百合の根を煎(せん)じて飲ますとよい、と、聞きおよびます。しかし、そのような百合の花が、この庄内にありますかどうか」 八坂の庄に、御触(おふれ)れ人(びと)が走り廻り、高札が建てられた。 「黒い花の咲く百合の花を探し出した者には、姫を嫁にとらす。一刻(いっこく)も早く探し出せ」 皆は、山といわず、川といわず、花の一本草の一本、数えるように探した。 けれども、だあれも、黒い花の咲く百合など見つけることは出来なかった。 「ええい、どこを探しておる。もっとよく探せ」 しかし、やっぱり見つける者はおらなんだ。 屋敷(やしき)の中は、沈として声もないんだと。 その時だった。 日頃、殿がかわいがっていた栗毛(くりげ)の馬が、激しくいなないて屋敷に駆け込んできた。 口(くち)に、黒い百合の花を一本くわえている。 殿は、夢中で栗毛にまたがると、ひとむちあてた。栗毛は、矢のように領境(くにざかい)めがけて駆けて行った。 うっそうとした林を抜け、ゴロゴロした岩場を跳(と)んだ。 いくつもの山を越えた栗毛は、やがて、陽(ひ)もささぬ深い谷で止った。 そこには、岩間に黒い百合の花が数本、鮮(あざ)やかに咲き、風に揺(ゆ)らめいていた。 ほどなくして、姫の病は癒(い)えたそうな。 姫を嫁にという約束は、相手が馬ではどうしようもない。約束はなかったものになった。 八坂の庄には、以前にも増(ま)して美しい姫の姿が見られるようになった。 ところが、きまって、あの栗毛が寄り添っていて、離れようとしない。 殿も姫も、気味悪くなり、栗毛を馬小屋に閉じ込め、固く柵(さく)をしてしまった。 しばらくたち、姫は病気全快のお礼参りに若宮(わかみや)八幡(はちまん)へ詣(もう)でた。 ところが、駕籠(かご)にのって帰る途中、柵を破った栗毛が、狂ったように、姫の行列めがけて突き進んできた。 「あっ、あぶない!」 「姫のお身を守れ!」 しかし、栗毛はお供の者達を蹴散(けち)らし、とうとう、姫を、川に突き出た大きな岩の上に追いつめてしまった。 岩の下では、八坂川の濁流(だくりゅう)が、ゴウゴウ音をたてて流れている。 栗毛の目は怒りに燃え、吐く息が荒々しく姫に吹きかかる。 栗毛が何かに憑(つ)かれたように姫に迫(せま)った。 「いやじゃあ」 一声残した姫は、栗毛ともつれるように八坂川に身を踊(おど)らせたそうな。 いつしか、”身投げ石”と呼ばれるようになったその大岩は、栗毛の蹄(ひづめ)の跡(あと)を今に残し、こんな話を土地の人々に語り継がせている。 10『ネズミの彫(ほ)りもの』―大分県― どんな時代、どこの町にも、一人や二人、必ず楽しい人物がいるンのです。 なまけ者であったり、おどけ者であったり。そのくせ、とっぴょうしもない智恵(ちえ)があって権力を振りかざす役人、庄屋(しょうや)を、きりきり舞いさせる。 こんな人がいると、ついつい世間話にのぼりがち。 そのうち、おもしろい話があると、すべてその人物に結びつけられていく。 こうして、いくつもの話が出来上る。 昔から語り継がれた人物に、吉四六(きっちょむ)さんという人が居ます。 本当の名前は、広田(ひろた)吉右衛門(きちえもん)と言い、大分県野津市(のづいち)の役場裏にお墓があります。 数ある吉四六さんの話の中から むかし。 ある時、吉四六さんがふらりと庄屋の家に立寄(たちよ)るとな、 庄屋は、ネズミの置物を手に取って、ひとり悦に入っておった。 「おお、吉四六どんか、よいところに来た。お前、左甚五郎の彫り物は、まだ拝んだことがあるまい。これは我家の家宝じゃが、特別に見せてやるからこっちに上れ」と、言う。 こう勿体(もったい)ぶられると、負けず嫌いの吉四六さん、意地(いじ)でも反抗(はんこう)したくなる。 「ふうん、庄屋さん、わしの方にもネズミの彫り物があるが、これよりよっぽど出来が良い」 庄屋の顔が、だんだんけわしくなった。 「これが本当なら、明日、くらべてみよう」 「承知(しょうち)しやした。お互いのネズミをくらべち見ち、勝ったら、負けたものをもらうっちゅう事にしましょうや」 行きがかりの意地っ張りから、妙な約束が出来たが、後には引けない。 その夜、吉四六さんは、一丁のノミを取り出し、薄暗(うすぐら)い行燈(あんどん)の下で彫り物を始めた。 次の日、庄屋の家に持って行き、庄屋のネズミと並べて置いた。 が、どう見ても、吉四六さんのは不細工(ぶさいく)だ。 それでも吉四六さんは自信たっぷり、 「お互い、ヒイキ目で見ても始まらん。これは、猫に勝ち負けを決めてもらいやしょう」と、庄屋の飼い猫をつれて来た。 すると、猫は、ちょっとの間、ためらっていたが、さっと、吉四六さんのネズミに跳(と)びつき、それをくわえて表に逃げ出してしまった。 「そうれ、わしの勝ちじゃ。約束通り、こいつはもらっちいきやす」 庄屋のくやしがること。 実はな、吉四六さんの彫ったネズミはな、カツオ節で彫ってあったんだと。 昔まっこう猿まっこう、 猿のお尻は まっかいしよ。11『尻尾(しっぽ)の釣(つ)り』 ―青森県―むかし、あるところに、猿とかわうそが棲(す)んでいたそうな。 猿は、かわうそがいつも魚をとってはおいしそうに食っているのを見て、うらやましくてたまらない。 ある日、猿はかわうそに 「かわうそどん、どうしたらそんなに魚がとれるのかい」と、聞いた。 かわうそはまじめな顔をして教えた。 「あの川に氷が張ったとき、氷に穴をあけて、尻尾をさしこんでおけば魚はひとりでに食いついてくるさ。そのとき尻尾を引っ張れば、なんぼでもとれらぁね」 <これはいいことを聞いた>と、猿は、その夜早速(さっそく)氷の上に座って氷に穴をあけ、尻尾をさし入れて魚の食いつくのを待った しばらくすると、猿の尻尾をびくらびくら引っ張るものがある。 「さあ、雑魚(ざこ)が一匹くいついた」と、喜び   小っさい雑魚は あっちゃいけ   大っきい魚は  こっちゃこいと、うたいながら、なおも、じっとしていたそうな。すると、今度は前よりも痛く、びくびくっと尻尾を引いた。 「今度は二匹くいついた」 「今度は三匹くいついた」 猿は、尻尾が氷の中で凍っていくのも知らないで、引っ張られるたびに勘定(かんじょう)しながら待ったと。 やがて、川には厚い氷がすきまなく張り、猿の尻尾も凍りついてしまった。 「さあ、今度は上(あ)げよう」と、猿は尻に力(ちから)を入れて「うん」と引き上げたが、尻尾はぴたりと食いついて離れない。 「ははあ、こりゃ大きな魚だわい」と、喜んで、   ますがついたか やんさあ   さけがついたか やんさあと、うたいながら顔を真っ赤にして引き上げた。 が、ちょこっとも動かない。 さすがに猿もあわてて   ますもいらない のいてくれ   さけもいらない のいてくれと、泣きうたうたって、力いっぱい「うん」と引き上げたと。 そしたら何と、猿の尻尾は、根元(ねもと)からプッツリ切れてしまったそうな。 猿の尻尾が短かく、顔は赤く、尻もただれて赤くなったのは、こんなことがあったからだそうな。とっちぱれ12『自分(じぶん)の頭(あたま)を食(く)った蛇(へび)』 ―鳥取県― むかし、あるところに大分限者(おおぶげんしゃ)で、とても話の好きな婆(ば)さまが住んでおられたそうな。 その隣には、彦八(ひこはち)といって、こちらは、めっぽう話上手(はなしじょうず)の貧乏男が住んでいたそうな。 婆さまは、この男の姿を見かけるたびに、 「彦八、話をしておくれや」と、せがんでおった。 あるとき、また、婆さまが話をせがむと、彦八は、 「話してもええよ。話は話すけえども、わしの話に、いちいち、あんたが『そりゃあ嘘だ、そりゃあ嘘だ』っておっしゃっては、話してみたところで面白うない。あれをやめてくれたら、話しますだ」と、こう言ったそうな。そしたら婆さまは、 「いや、言わん。それは言わん。言わんつもりたけれども…。そうだ、こうしょう。ここに千両箱を置いといて、もしも、その言葉を言うたなら、千両をみなおまえにやってもええ」と、約束した。 そう言う事なら話してもええと、彦八は話しはじめた。 「むかし、クチナワっていう蛇が、冬になると、餅石(もちいし)というものを持って穴ごもりをしとったが、冬が長(なご)うて、餅石は食べてなくなってしもた。穴の口からのぞいて見ても、雪が、たんと積もっておって出ることならん。 いつもの年なら、餅石がなくなる頃には雪が消えるものなのだが、その年に限って雪は消えん。 クチナワは、腹は減るし、困っておった。しかたないから、首をクリッとまわして、自分の尻尾をチョキッと食った。 翌日も雪がまだまだある。腹が減ってしかたないから、また、首をクリッとまわして、自分の尻尾をチョキッと食った。 こうして、とうとう首だけになったそうだ」 彦八が、いったん、話をここで止めると、婆さまは、口(くち)をもごもごしとる。 そんな婆さまをチラッと見た彦八は話を続けた。 「クチナワの頭は、『おらの身体も、いよいよ淋しいことになったもんだ』ちゅうて、なげいとったけど、なんと、自分の頭まで、スポ-ンと、食ってしまったそうでござんすわい」と、話したから、婆さまはあきれかえって、思わず言うてしまった。 「何んと彦八、そりゃあ嘘ではないかや」 「はい、ありがとうござんす」 彦八は、まってましたとばかりに、千両箱をかついで、とっとと去ったそうな。 昔こっぽり13『鳶(とんび)不幸(ふこう)』―静岡県―  むかし、あるところに、とんびの親子がおったそうな。 子とんびはヘソ曲りの子であったと。 親が、「山へ行け」と、言えば海へ行き、 「海へ行け」と、言えば山へ行く。 「今日の食べ物はおいしい」と、言えば「まずい」と、言って、いつもあべこべばかりしていたそうな。 そのうち、親とんびが、重い病(やまい)にかかって死にそうになった。 「はぁて、おらはもうじき死ぬ。死んだらば山に埋(う)めてもらいたいが、あの子は何でもあべこべにする子だからなあ」 こう思った親とんびは、子とんびをそばに呼んで、 「おらが死んだら、海へ投げこんでおくれ」と、ゆいごんして死んでいった。さて、死なれてみて、はじめて親のありがたさが分(わか)るようになった子とんびは、 「ああ、おら、親が生きとるうちは、ぎゃくばかり言ってさんざんこまらせたなあ。せめて、最後のたのみだけはきいてやろう」と、言って、言いつけどおり親を海へほうりこんだ。 ところが、親が、年がら年中海で水びたしになっているかと思うと、かなしくてたまらない。 子とんびは、泣き泣き暮らしているうちに、 「そうか、山の静かなところへ埋めて欲しかったんだ。きっとそうだ」と、ようやく気がついた。 「海が引いたら親を拾ってきて、今度は山へ埋めよう」 そう思ってな。  海の水早よ引け  早よ引け  うみん ひいよひょう  うみん ひいよひょうと、鳴きながら、今でも親を慕(した)って捜しまわっているのだそうな。-鳶不幸解説- このトンビの子は君ににていませんか。たいていの大人は、かつて子供だたころ、親にさからった経験を持っています。 だかたこそ、いっそう印象ぶかく、全国各地で語られてきました。 お話の主人公には、トンビの他に、雨蛙、山鳩などがなっている話もたくさんあり、いずれも天候の変化にかかわりがある話になっています。 それにしても、トンビのなき声を、「ウミンヒーヨヒョウ=海の水早よ引け」と、聞いた昔の人は、なんとすてきな詩人の耳を持っていたことだろう。そう思いませんか。14『夢(ゆめ)合(あ)わせ』―秋田県― むかしむかしあったと。  あるところにお大尽(だいじん)がいてな、正月の二日(ふつか)に何人もの下男下女を集めて、夢合わせしたそうだ。 「わたしゃあ、こういう夢を見ました」って、みんなは話したけんど、一番小(ちい)せえ小僧だけは、なんぼ話せったって話さなかったと。お大尽は、 「どうしても話さなかったら、川さ流してやる」って言ったけれども、小僧は話さなかったと。 夢、見たけど、話さなかったと。 おこったお大尽は、箱舟こせぇて小僧を乗せ、米と粟(あわ)を入れて、蓋(ふた)して川に流したと。 箱舟は、流れて流れて海に出て、また流れたと。そうして、ある浜さ流れついたと。 すると、赤鬼、青鬼が拾って鬼の親分のとこさかついで行(い)ったと。蓋、取ってみたら、小僧が出てきた。 「なして、こうしてやる」って言うから、 「夢、見たやつ、喋(しゃべ)らねで、こうして流された」って言ったと。 「その夢、おれに教(おせ)えろ!!」って鬼の親分が言ったけんど、教えなかったと。 「それじゃ、喰っちまうが、いいか!!」って言ったけんど、それでも教えねって。 こんだ、 「宝もの、授(さず)けるから教えろ」って。 「宝ものってなんだ、見せろ」って、小僧が言ったら、鬼は三本の棒を持ってきて、 「これは千里棒、“千里”って唱(とな)えりゃ千里飛ぶ。こっちは聴耳棒、鳥やけだものの言(い)うことがわかる。そしてこれは生き棒、死人をなでれば生き返る。どうだ、この宝では」 「触ってみなけりゃ、信用できね」 「じゃ、触ってもいいが、もの言うな」って。 小僧は、三本の棒を握るが早いか、 「千里、千里、千里」と唱えたと。すると、ビュ-ンって、江戸まで飛んでったと。 江戸の町のはずれじゃ、カラスがカアカア鳴いてたと。それで、聴耳棒を耳にあててみると、 「朝日長者の娘(むすめ)が死ぬ、急げ」って。 朝日長者の家では、もう葬式の用意にかかってたと。さっそく、死んだ娘の体を生き棒でさすると、目をあけて生き返ったと。 娘は、小僧を好いてしまった。 ところがこんだぁ、日暮長者の娘が死んだと。日暮長者が、両手をついて頼むんで、小僧はこの娘も生き返らせた。 この娘も小僧を好いてしもうた。 「朝日長者の聟になってくれ」 「日暮長者の聟になってくれ」って両方から頼まれてな、思案の末に、二つの所帯を持つことにしたと。 月の十五日は朝日の家、後の十五日は日暮の家。交代は途中の橋の上で、二人の娘に送り迎えされて、一生、幸せに暮らしたと。小僧の見た夢は、夢をだれにも語らなければ“二人の娘に肩よせて、橋を渡る”だったと。とっぴんぱらりのぷう。15『亀(かめ)の甲(こう)ら』 ―新潟県― うそかほんとか知らんが、その昔、亀は、カナチョロのようにすばやく走りまわっておったそうな。 あるとき、亀が日向(ひなた)ぼっこをしているところへ、雁(かり)が七羽、パタラパタラおりてきたと。 「雁どん、雁どん、おまえさんたちは、いつも天竺中(てんじゅくじゅう)を飛んであっちこっちのことをよう知っていなさる。おらときたら、いつも地べたばかりでほんとうにつまんねえ。一(いっ)ぺんでいいから、おらも天竺を飛んでみたい。おら、おまえさんたちがうらやましい」 「亀さん、亀さん、そんなに私達のことがうらやましいなら、私達が天竺へ連れて行ってあげましょう」 「ほんとうかい!?でも、どうやって?」 「そこにある棒(ぼう)を亀さんはしっかりくわえて下さい。どんなことがあっても、決してしゃべってはいけませんよ。しゃべれば地べたに落ちますから」 「ようしきた。おらはしゃべらんぞ」 亀が一本の棒のまん中をくわえると、両脇(りょうわき)に、雁が三羽づつ足でつかんだ。 一羽を先頭にして、雁と亀が空に舞いあがった。 亀は初(はじ)めて飛んだので、腹のあたりがこちょこちょとたよりない。思わず声を出しそうになったが、ぐっとこらえた。 慣(な)れてくると亀はうれしくなって、そこらをキョロキョロながめていたと。 ある村の上に飛んでくると、遊んでいた村の子供達が、雁と亀を見つけて、 「見れや、雁と亀が飛んで来たぞ」 「亀が雁にさらわれて行くぞ」と、ワイワイさわぎはじめた。これを聞いた亀は、思わずしゃべってしまった。 「そうでねぇ。おまえら、おらはさらわれていくんでねぇ」 そうしたら、亀は棒を離れて、空からまっさかさまに地べたに落ちてしまったと。 それからな、亀の甲らには、あっちこっちひびが入って、あんまり痛いもんで地べたをはうようにノソラ、ノソラ歩くようになったんだと。 亀の目をようく見てごらん、今も涙をながしているから。16『鬼(おに)の田植(たうえ)』―新潟県(佐渡)―節分のとき、あなたの家では何と言って豆をまきますか? ふつうは、「福は内、鬼は外」って豆をまきますよね。それが「福は内、鬼も内」と、こう、まく家がある。その家もずっと昔には「福は内、鬼は外」と、豆をまいていたんだけど… とんと昔があったげナ。佐渡(さど)の黒姫(くろひめ)に一軒の庄屋(しょうや)があったと。その家の田んぼは“山田(やまだ)” ちゅうて、山の上からふもとまでずっと続く田んぼでナ、田植の頃になると、近所の者がみな手伝って、山の上の方からだんだん植えていくそうな。 ある年のこと。 田植しとると雨が降ってきて、そりゃもう底がぬけるほどの大雨になったと。 「こりゃもうたまらん。明日にしょう」言うて、苗(なえ)を田んぼのあぜに置いて、しかたなく帰ったと。 次の日になると、きのうの雨はウソのようにやみ、カリッと天気になったと。やれやれと田んぼに行ってみると、なんと、あぜに置いた苗がちゃんと植(う)わっている。 「おめえが植えたかや」 「おめえが植えたかや」と、口ぐちに聞いたが誰も知らん。なんとも不思議なこともあるもんじゃと思っておったと。 やがて秋になって田んぼに行ってみたら、なんと、穂の中にもう白い米が出来とった。話を聞いて、見に来る者がいるはおがみに来る者がいるは、大騒ぎになったと。 次の年になって、田植の時、ためしに苗をそっと置いて帰ってみたらまた植えてあって、秋になったらやっぱり白い米がなっとったと。 そうやって何年か続いたある年のこと。 庄屋の婆(ば)サが、「正体見とどけてやろう」ちゅうて、田んぼに出かけたと。そして、木かげに隠れて息ころして待っていたと。 やがて、夜中になって、笛(ふえ)の音(ね)や太鼓(たいこ)の音(おと)が聞こえて来た。 婆サは、目をあけるだけあけてよおっく見ると、誰だか田植していたと。 笛や太鼓の調子に合わせて唄も聞こえてきたと。     ずんずくぼうしや て-て-ころ   穂にゃならんでも つっぱらめぇ あんまりおもしろいので、婆サも、つい浮かれて「それやれ、これやれ」と、はやしながら踊(おど)りたしたそうな。 すると、田植してたのが手を止め、婆サの方を見たと。婆サの見たのは鬼じゃったと。 婆サは、驚ろいて気が遠くなったが、もう、田んぼには誰もおらんかったと。 それからは、苗を置いても植えてもらえなかったと。 その家では、それからというもの、「ありがたい鬼じゃ」ちゅうて、節分には「福は内鬼も内」と、豆まきするようになったんだと。  いっちゃはんじゃさけた。17『狐(きつね)の玉(たま)』―福井県― むかし、ある寺に、かしこい小僧がおってな、山の狐穴(きつねあな)から、“狐の玉”を拾(ひろ)ってきたそうな。 その玉が無いと、狐は人をだませんのだと。 小僧は、自分のつづらにこの玉を入れ、大事にかくしておった。 ある日、小僧が和尚(おしょう)さんの用事で出かけて行ったら、その間にお婆さんが訪ねてきて、   「わしは小僧の親や。小僧が、汚(よご)れものがあるので洗濯(せんたく)してくれ、言うて、出かけに寄(よ)ったんで、あの子のつづらを見せておくれ」と、言うんだと。 和尚さんがつづらを出したら、お婆さんは玉を見つけ、洗濯物の中へちょいとかくして持って行ってしまった。やがて小僧が戻ってきたら、和尚さんが、 「おっ母さんが、お前の洗濯物を持って帰ったで」と、言う。 「そりゃ大変ゃ。そんなもん頼(たの)んだ覚(おぼ)えない。狐や」 あわててつづらを見たら、狐の玉が無いんだと。 「玉が無いのに化けてくるとは。狐のやつめ、狸に頼んで化けの皮でも貸してもろたんかしらん。いや、わしも頭を使わんならん」 しばらく考えてから小僧は、稲荷大明神(いなりだいみょうじん)のところへ行って、神主(かんぬし)さんが祝詞(のりと)をあげる時(とき)に着る装束(しょうぞく)を借り、身につけて、山の狐穴のところへ行くんだと。「こら、穴の狐。おるか」 「へぇ-」 狐は稲荷さんが大将(たいしょう)だから、はいつくばるのも当り前のコンコンチキ。 「わしは稲荷じゃが、お前は大事な玉を寺の小僧にとられたそうじゃな。本当か」 「いやあ、そんなもん、とられやしません」 「いや、とられたそうな。ふとどきなやつじゃ」 「いやあ、とられやしません」 「そんなら、その玉を見せてみい」 「へへぇ」 狐は、穴の奥から玉を出してきたそうな。 「あっ、これや」 稲荷さんに化けた小僧は、ぱっと玉を盗って、山をどんどんかけ下りて行ってしまったそうな。 そろけんどっぽ、はいだわら。 18『ねずみ経(きょう)』―新潟県― むかし、あるところに婆サが住んでおった。 ある晩、旅の坊ンさんが道に迷ってたずねてきた。婆サは一人住まいで寂(さび)しかったものだから、喜んで、 「はいはい、なんぼでも、泊(と)まってくんなせ」と、言うて泊めたと。 夜ふけに、 「坊ンさま、おら、いつも一人でたまらんねぇすけ、お経(きょう)をひとつ教(おせ)えてくんなせ」と、願(ねご)うた。 坊ンさんは、実は本物の坊ンさんではなかったから、 <あれ、これは困ったぞ、どうしょうかの> と、ほとけさまの前にすわっていると、壁の穴から、ネズミがチョロチョロ出ばってのぞいていた。 坊ンさんは、 <そうだ、こいつをでたらめに言ってやれ>と、思って、 オンチョロチョロ、出られっけ。と、読んだら、ネズミはおどろいて、そこらをキョロキョロ見まわした。 また、それをお経にして、   スットンキョウの、キョウロキョロ。と、読んだ。すると、ネズミはたまげて、穴の中へ逃げこんだと。それを、また、お経にして   シッポに帆かけて、スタコラサッサ。と、読んだ。 次の朝、坊んさんは早々に帰っていかれたと。 その晩、婆サがお経を読んでいると、泥棒がしのびこんだ。泥棒は、めぼしいものを大風呂敷(おおぶろしき)につつみ、それを背負(せお)って部屋から出ようとすると、   オンチョロチョロ、出られっけ。と、言う声がした。 泥棒は、びっくりしてキョロキョロ見まわした。すると、続けて、   スットンキョウの、キョウロキョロと、言うので、泥棒は、 「これは、おらが入ったことを知られているようだ。いや、こら、きびが悪いな。こんげなところにいられねぇ」と、逃げかけると、   シッポに帆かけて、スタコラサッサ。と、またまた声が追いかけて来た。 つかまえられたら一大事だと、泥棒は盗(と)った荷物(にもつ)をほうり出し、尻に帆を掛けて、逃げに逃げたと。  とっちぱれ。19『奥方(おくがた)に化(ば)けた狐(きつね)』―愛媛県― むかし、今の道後温泉(どうごおんせん)のそばに、湯月城(ゆづきじょう)というお城があって、河野伊予守道直(こうのいよのかみみちなお)という殿さんがおったそうな。 ある日、殿さんが狩(か)りに出て帰ってみると、奥方がふたりになっている。 顔も同じなら声も同じ、姿、しぐさも瓜(うり)ふたつで、 「わたしがほんとよ」 「にせものはあちらよ」と、殿さんに向かって、にっこりほほえむのだと。 どっちがどうと、見分けがつかん。 殿さんは、目ぇを白黒させてしまった。 医者をよんで診(み)せると 「こ、こ、これは離魂(りこん)ともうして、魂がふたつに分かれる不思議な病でございまするゴニョゴニョ」 と、わけのわからんことを言う。 カミやホトケにいのってもききめがない。 いよいよこまった殿さんは、二人の奥方を座敷(ざしき)にとじこめて、ようすを見ることにした。 腹のすいたところをみはからって、膳(ぜん)を出すと、ひとりの奥方が、耳を、びくびくっと動かし、がつがつと食べている。 「それ、あれがにせものじゃ」 殿さんのひと言で、家来(けらい)たちがその奥方をとらえ、庭の杉の木にくくりつけて松葉でいぶすと、コンコンせきをして、古狐が正体をあらわしたそうな。 「おのれ、狐のぶんざいでようもこのわしをだましおった。こともあろうに、奥の姿に化けるとはかんべんならぬ。火あぶりにしてくれる」 殿さんは、こうどなりつけた。 家来たちが火あぶりの用意をしていると、何百匹もの狐が、どこからともなくぞろぞろあらわれ、頭をすりつけてたのんだと。 『かんにんして下さい』この狐は、四国にすむ狐の中で最もとおとい狐です。もし殺したら、ご領内(りょうない)に、きっと悪いたたりがあります」 あまり口ぐちにたのむので、殿さんは許(ゆる)してやったそうな。 奥方に化けたとうとい狐は、「もうこれからは四国にはすまぬ」と、わび証文(しょうもん)を残し、みんなを連(つ)れて立ち去って行ったと。 四国に狐がおらんようになったのは、このときからなんじゃそうな。20『猿(さる)の生(い)き肝(ぎも)』―鹿児島県―むかし、竜宮浄土の乙姫さまが病気になられて、いっこうに治らないんだと。神様に見てもらったら、「猿の生き肝を食えばよくなる」と言われた。 「ほうせば、だれが猿を連れて来るがら」 「そら、亀がいい」 そういうことになっての、亀が猿を連れて来ることになったと。 亀が浜辺に泳ぎ着いてみれば、猿は浜の松の木に登っていたと。 「猿どん、猿どん、いつも木にばかりつかまっていねえで、たまには竜宮浄土へ行ってみたあねえか」 「行ってみたいども、おら泳ぐことがならん」 「ほうせば、おらが連れてってやるだ」 ほうして猿は、亀の背中に乗って、竜宮浄土へ行った。 竜宮浄土では、りっぱな部屋に案内され、いい着物(べべ)着せてもろて、たくさんのごっつおだったと。その上、魚の踊りまで見せてもろうた猿は、すっかり気持ちよくなっての、喜んで遊んでいた。 ところが、あんまり食べすぎて、便所へ行きたくなっての、門のところまで行ったらば、門番のクラゲが話しているんだと。 「猿のバカが、手前の生き肝を取られるのも知らんと、いい気持ちになって喜んでいらや」 これを聞いた猿は、赤い顔を青くして驚いた。  <おらの生き肝を取るだと、こらあ大事(おおごと)だと思って亀の処へ飛んで行った。 「亀どん、俺らは大変なことをした。ここ来る時に、大事な生き肝を木の上に干したまま来てしもた。ところが、どうも雨が降りそうだ。生き肝が腐るんでねえかと、俺ら、それが心配で」 「なに、生き肝を木の上に干して来たと。そりゃ大事だ。俺らの背中に乗せて連れてってやるから、木から取り込んで来いや」 「そうしてもらえればありがたい」そう言って、猿は、また、亀の背中に乗って元の浜辺へ、生き肝を取り込みに戻ったと。ほうして、猿はするするっと木に登ったまんま、下へおりてこないんだと。 「おおい、猿どん、はや、生き肝を取り込んで来いや」 「何言うているや、俺ら生き肝なんか、ここに干してねえ。生き肝ちゅうは、出したり入れたりしられるもんでねえよ。生き肝を取られれば死ぬに決まってら、そんげな所へ、おら、え-いがんど」と、持っていた石を、どんどん亀にぶっつけた。 「なに、いて、いてて、誰がおめえの生き肝を取ると言うたや」 「クラゲがそう言うたや」こうなると亀はどうすることも出来ない。独りで竜宮浄土へ帰って行った。 ほうして、クラゲは、猿に聞かせた罰で骨を抜かれて終ったと。 クラゲに骨が無くなったのは、これからだそうな。 そいぎぃの昔こっこ。21『小三郎池(こさぶろういけ)のはなし』―長野県―むかし、むかし、さてむかし。ある村に、小三郎(こさぶろう)という木こりの若者がいたそうな。 小三郎は木こりの親方の家におる、ちんまという飯炊(めした)き上手の女子を好いておった。気立てのいい女子でなぁ、ちんまも小三郎の事を好いておった。 ある日、いつものように、ちんまの作ってくれた弁当腰に、もう一人の木こりと連れだって、山へ出かけた。 昼めしどきになって、小三郎が、沢まで水を汲(く)みに下りて行くと、自分の背(せ)ほどもある岩魚(いわな)が、ゆたぁりと泳いでおった。 「ほお、たいそう大きな、岩魚じゃあ、あいつと分けて食うてやろう」 小三郎は、岩魚をあっちこっち追回しやっとのことで河原へ引き上げて焼いたそうな。ひとくち食べ 「これは、うまいのう」もうひとくち食べ 「少しぐらい残してやりたいが…うまくてうまくて、どうにもならん」 とうとう、小三郎は、一匹全部ひとりで、食っちまったんじゃ。 すると、どうしたわけか、無性(むしょう)に水が飲みたくなった。川のふちに手をついて、ガブガブ飲む、 川の水、全部飲むようないきよいじゃった。小三郎のからだは、みるみるふくらんだが、それでも川底をさらうように砂も一緒に飲んでいる。 「小三郎やぁい」 小三郎の帰りがあんまり遅いので仲間の木こりが様子を見に来ると、川のふちに大蛇が立っておった。 「わしじゃ、小三郎じゃ」 「小、小、小三郎っ。どうしたんじゃぁ」 「ゆるしてくれ。お前に残さずに岩魚を食ったために、こんな姿になってしまったんじゃ」と、いうと、大蛇になった小三郎は、ずるずる池の中に消えたそうな。 わけを聞いたちんまは、毎日毎日、山に来て小三郎の池をながめては、涙を流した。その涙は、水たまりになり、水たまりは池になって、とうとうちんまも小三郎恋しさのあまり、蛇に姿を変えて池の主(ぬし)になってしまったんじゃ。 岐阜(ぎふ)の日和田(ひわだ)というところに、小三郎池とちんまヶ池が寄り添うようにしてあったが、いつの間にか、ちんまヶ池はすっかり枯(か)れてしまったのう。それは、ちんまが小三郎のところへ嫁に行ったからだ、ということじゃ。22『味噌買橋(みそかいばし)』―岐阜県―むかし、あったと。飛騨乗鞍(ひだのりくら)の奥山(おくやま)深く分け入った中に沢上(そうれ)という谷があって、長吉(ちょうきち)という正直な炭焼きがおった。 ある晩げ、長吉の夢枕に仙人のような年寄りが現われて、 「長吉よ、高山(たかやま)の町へ行って味噌買橋の上に立っていて見よ。大層よいことが聞けるぞ」と、教えてくれた。 「よいことと言ったら何じゃろ」 長吉は、暗いうちから焼いた炭を背負うと山坂を越えて行った。 町に着くと、道々炭を売り歩きながら味噌買橋をさがしてまわった。 ようやく見つけた橋は、いかだをつないで作った粗末(そまつ)なものだったと。何でも川向こうの味噌屋へ味噌を買いに行くのに掛けた橋だそうな。 長吉は、橋の上に一日立ちつくしたが何も聞けなかった。 二日三日四日も過ぎて五日目。 橋のたもとの豆腐屋の主が、不思議そうに長吉のそばに寄って来て問うた 「お前はどこのお人か知らんが、毎日、橋の上に立ってどうしたんじゃ。わしは毎日庭から見ておりましたがのう。はや、もう五日になるがな」 長吉が夢の話を聞かせると、豆腐屋は笑い出して、 「わしもこの間夢を見たんじゃ。年寄りが出てきておかしなことを言ったがな。何でも乗鞍の沢上というところに、長吉という男がおる・・・」と、言いかけた。長吉は<ありゃ、おらのことを言ってる>と、たまげたが、顔には出さずに、「ふん、ふん」と聞いとった。 「『その男の家のそばの松の木の根を掘れ。宝物が出てくる』と言うたがの、わしは、沢上なんてところはどこにあるか知らないし、そんな馬鹿気た夢を本気にはせん。お前もいいかげんで帰ったらどうかの」  長吉は、これこそ夢の話にちがいねえ、とはやる心を押えて我家へ走って帰った。 庭の松の根っ子を掘ってみれば、金銀宝物がザクザク出てきた。 長吉は、いっぺんに金持ちになって、村の人から福徳長者と呼ばれて、一生安楽に暮らしたと。 しゃみしゃっきり。23『豆と炭とワラ』―岩手県― むかしむかし、あるところにお婆さんがおったと。 お婆さんは、豆を煮ようと思って、空豆を水につけておいたと。柔らかくふくれたころ、鍋にザランとうつしたのだが、一粒だけコロコロこぼれて、庭の隅まで転がって行ったと。 お婆さんは、こんどは、たきつけのワラをとりに行った。すると風がフイと吹いて、一本のワラが飛んで、庭の隅の空豆のそばに落ちたと。 お婆さんは、それからかまどに火を燃やし、豆をコトコト煮ていると、真赤な炭がはねてさっきの豆のそばに飛んで行った。 そら豆と、炭と、ワラは、三人でお伊勢参りに出かけたと。 いくがいくが行くうちに、小さい川にぶつかった。が橋が無い。困ったなあ、と考えていると、ワラが、 「うん、これがいい。わしが一番長いすけ橋になってやる。お前さんらが先に渡ってけや。それからわしを向こう岸へ引き寄せてけれ」 「せば、そうしてけれ」  いざ渡る段になると、空豆と炭が、 「わしが先」「おらが先」と、けんかを始めた。空豆が負けて炭が勝ったと。 炭がブスブス言いながら、半分ばかり渡った頃、そら豆が「早よ渡れ!」と、けしかけたので、こんど炭はカンカンになっておこった。 たまらないのは、橋になっているワラだ。熱くて熱くてたまらない。アチチチ・・・と言いながら、とうとうワラは焼け切れてしまったと。 炭とワラは、ジュッと声をたてて流されて行く。 これを見た空豆は、おかしくてたまらない。 「さっきの罰だぁ」と、大声で笑った。あんまり笑いすぎて、腹がパチンと裂けてしまったと。困って泣いていると、そこへ裁縫屋が通りかかった。 「空豆や、なんで泣いている」と、尋ねたが口もきけない。 「こりゃ、かわいそうに」と、黒糸で縫ってくれたそうな。 ほれ、空豆の腹のところが黒くなっているじゃろが、あれはその時のあとなんだと。 どんとはらい、ほうらの貝こぽうぽうと吹いた。 24『狼(おおかみ)の眉毛(まゆげ)』―広島県― なんとむかしあったげな。あるところに、分限者と貧乏人とが隣りあって住んでおったげな。 貧乏人は、分限者から毎朝鍋を借りて来て鍋の底にこびりついているコゲをこすり取って食べる有り様だったと。 ある日、この姿を隣の分限者に見られてしまった。 「もう明日から、鍋を借りに行くことは出来ん。自分のような男は、いっそ狼に喰われて死んでしまった方がええかも知れん」と、思って、真夜中に狼の出る山へヒョロヒョロ登っていった。登っては行ったが、腹が空(へ)って高くは行けん。途中でへたりこみ、 「さぁ狼ども、喰ってくだされ」と、叫んだ。 すると、狼が北の方からゴソゴソやって来たが、どうしたことか少しも顔を見せない。 「のう、わしがやせてまずそうだから喰わんのか?こんでも少しは肉がついとるで、ほれ喰って下され。早よう」 今度は、東の方から狼が出て来たが、やっぱり顔を出さない。 男は、死ぬことも出きんのかと、すっかりしょげてしまった。 すると、西から年老いた狼が近寄って、こう言った。 「何んぼう『喰え喰え』言ったって、ここにゃお前を喰う狼はおらん。お前は真人間だからの。狼にはそれがようわかる。この狼の眉毛をやろう。これがあれば、決してひもじい目にあうことはないじゃろ」 狼は、自分の眉毛を片方くれると、山の奥へ姿を消してしまった。 男が山を下りて行くと、見知らぬ村で、大勢の早乙女達が田植えをしているところに出あった。 男は、何げなく狼の眉毛をかざして見ると、みんな、山犬や、鶏や、猫豚に見える。 「ふ―む。世の中にゃ真人間なんて、めったにおるもんでないなあ」と、つぶやいておると、かっぷくのよい旦那がやって来て、 「わしにも、その眉毛を貸してくれ」と、言う。男が断わると、 「では、ちょこっと家へ寄ってくれ」と、立派な屋敷へ連れていった。 旦那は、 「わしはもう隠居したいと思うとる。お前は真人間と知ったので、この家の跡を継いでもらう気になった。ぜひ、たのむから受けてくれや」と、言う。 それからというもの、男は狼の言葉どうりひもじい思いをすることは無かったと。  むかしかっぷりけっちりこ。25『頭の池』―秋田県― 昔、あるところに貧乏な爺さがおったと。 ある時、爺さが山へ木の実をさがしにいったと。  そしたら、熟(う)れた柿の実ひとつ、ボタリと爺さの頭に落っこちたと。 爺さは、谷川で頭を洗ったけど、柿の種がひとつ髪毛の間に残ったと。 その柿の種が段々大きくなって、八年経(た)ったら実がなったと。 ざらんざらん、枝もたわわに実ったと。 爺さが、ひとつもいでみたら甘柿だ。 爺さは喜こんで、毎日、毎日、柿をもいでは「柿のもぎたて、柿のもぎたてはいらんかあ」と、売りに歩いたと。 爺さの柿はうまい、という評判がたって売れるの売れないの、大したもんだった。 とうとう、他の柿売り達が爺さの事をやっかんで、爺さの寝ている間に柿の木を伐ってしまった。 爺さは、三年ばかり泣いて暮らしたと。 その内、柿の木の根っ子が腐(くさ)ってきて、舞(ま)い茸(たけ)がはえる、しい茸がはえる、所(ところ)せましとはえてくるんだと。 あんまりいっぱいはえたもんだから、爺さは、 「きのこのとりたて、きのこのとりたてはいらんかあ」と売って歩いたと。 これまた、売れるの売れないの、大したもんだった。 とうとう、他のきのこ売りが爺さのこと憎んで、爺さが寝ている間に、頭の根っ子を掘り起してしまった。 根っ子掘ったあとが大きな池になったと。 爺さは、飯(めし)の種はなくなる、貯めた金はへって行く、困っておった。 そしたらある日、大雨が降って、頭の池に水がたまったと。 そこへ、どこからくるのか、マスが来る、鮭がくる、うなぎが来る、水がチャプチャプ波打つ程わいて来るんだと。 爺さは、毎日、毎日、魚をとっては売り、とっては売りして、大した金儲け。 あとあと安楽に暮らしたと。 とっぴんからりんのぷう26『きのこの化け物』―新潟県―むかし、あるところに、お宮があったんだと。 お宮の裏で、毎晩、化け物がいっぱい出て唄ったり、踊ったりしていたんだと。 この村に、踊りの大好きな爺さまがいて、ある時、 「その化け物、わしが行って見とどけてくる」と言うての、夜更けに出かけていった。 ほしたら、お宮の裏で小人がいっぱい集まって、唄ったり踊ったりしている。 踊りの好きな爺さまは、初めは隠れて見ていたが、その内たまらなくなっての。 一緒に踊り始めたと。 踊りながら、  「お前ら、何の化け物だ」 「俺ら、きのこの化け物だ、おめえ何の化け物だ?」 「わしは、人間の化け物だ」 「ほうか人間の化け物か、おめえは、何がいっち嫌いだ?」  「わしは大判小判だ、おめえらは何がいっち嫌いだ?」 「俺ら、ナスの塩水だ」 二言、三言、言葉を交してまた踊っていた、と、ほうしている内に小人達が、大判小判を持って来て、 「そら怖がれ、怖がれ」と、爺さまにぶっつけはじめた。 爺さまは、 「おっかね、おっかね」と、逃げて来たと。 ほしてナスの塩水を桶にいっぱい作って、ひき返し、 「ほらナスの塩水だ」と言いながら小人の頭からジャ―ジャ―かけたんだと。 ほしたら小人はいつの間にかみんな、どっかへ行って終ったんだと。 次の朝、爺さまが、お宮の裏へ行ってみたら、きのこがいっぱい、しおれてグダッとしていたと。 周りには大判小判がいっぱい落ちている。 爺さまは、それを拾って来て一生安楽に暮らしたと。  いまがさけたどっぴん27『吉四六(きっちょむ)さんの物売り』―大分県―昔、大分県野津市(のづいち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという、面白(おもしろ)い男がおったそうな。 とっさの時、心のはたらき方が面白いのだと。 ある時、吉四六さんが打綿(うちわた)を持って臼杵(うすき)の町へ売りに出たんだと。 が、めったに町へ出掛けなかったもので、道がよくわからん。困っていると、後ろの方から一人の壷売(つぼうり)りが、 「ええ、壷はいらんなあ、ツボはいらんなあ」と、大声でやって来た。 「よしよし、このツボ売りの後ろからついて行けば、間違いなく町を一巡(ひとめぐり)りできるぞ。こりゃいいあんばいじゃ」 吉四六さん、何げない顔でツボ売りの後ろにまわった。 ツボ売りが大きな声で 「ツボはいらんなあ」と、売り口上(こうじょう)をいうと、吉四六さんは、あとから、 「ええ、打綿、ウチワッタ―」と、売り口上をいう。 「ツボはいらんな」 「え―、ウチワッタ―」 「ツボはいらんな」 はたから聞いていると、打ち割った壷、と聞こえるので町の人はクスクス笑って誰も相手にせん。  ツボ売りは、吉四六さんにお金を渡し帰ってもらった。 <こりゃ、商売するよりこっちの方がよっほど儲かるわい>と喜んだ吉四六さん、次の日は、種売(たねう)りが通っているのを見つけ、そのあとから、古眼鏡(ふるめがね)を棒の先にくくりつけて、ついていった。 「種はいらんなあ」と言うあとに続けて、 「え―、めがね―」と妙(みょう)な売り声をあげる。 「種はいらんなあ」 「え―、めがね―」「種はいらんなあ」 芽が無い種と聞こえて誰も買い手が無い。 種売りもまた、吉四六さんにお金を渡して帰ってもらった。 いよいよ味をしめた吉四六さん、その次の日は、魚屋さんの後ろから、フルイを持ってついて行った。 天秤棒をかついだ魚屋が威勢よく 「イワシ、イワシ、イワシはいらんなあ」というと、あとから、 「ええ、フルイ、フルイ―」と続ける。 「イワシ、イワシはいらんなあ」 「ええ、フルイ」「イワシはいらんなあ」 古いイワシと聞こえるもので、やっぱり買手が無い。 魚屋も吉四六さんにお金をやって帰ってもらったと。 吉四六さん、あしたは、何売りが通るか、待ち遠しくってしょうがなかったと。  むかしまっこう猿まっこ、猿のお尻はまっ赤いしょ。28『モグラの嫁入(よめい)り』―滋賀県― あったそうな。 あるところに、モグラが一匹いたんだと。 そいで、それが子供産んだら、とってもいい子が産まれたんだって。 「こんないい子を、モグラんとこなんかに嫁にやっちゃあもったいない。日本一いいところへ嫁にやりたい。」 「そいじゃあ、お天とう様が一番偉いから、お天とう様に嫁にもらってもらいましょう」 そいで、お天とう様のところへ行って頼んだって。 「お天とう様、お天とう様。おれんとこでほんに器量(きりょう)もいい、利口な、いい子が生まれたので、嫁にもらってくらっしゃい。」 そしたら、お天とう様が、 「モグラどん、そう言ったって、雲が来ればおらを隠しちまって、おら照らせなくなっちまう。雲の方がおいらより偉いから、雲にもらってもらい。」って言ったって。 それで雲に、 「雲どん、雲どん、ほんにいい子が生まれたから、嫁にもらってくらっしゃい」 って言ったって。 そしたら雲が、 「風が吹けば、おいらなん吹っ飛んじまうだから、おいらより風の方が偉いから、風にもらってもらい」 それで風んとこいって 「風どん、風どん、おいらの子嫁にもらってくらっしゃい」 「う―ん、モグラどん、おいらがいくら吹いたって土手はびくともせん。土手どんの方が偉いから、土手どんにもらってもらい」 こんどは、土手どん所へ行って、 「土手どん、土手どん、おらの子いい子が出来たから嫁にもらってくらっしゃい。日本一偉い人んとこに嫁にもらわれたい」って言ったって。 そしたら土手は、 「そんなこと言ったって、モグラが居たんじゃみんな崩されちゃう。おらよりもモグラが偉い。」て言ったって。 そうか、日本一はモグラだったかって、そいで仲間のモグラんところへ嫁にやったそうな。 そうらいごんぼ 豆の花よごし。29『順(じゅん)めぐり』―山口県― むかし、あるところに、一人の猟師(りょうし)がおったげな。 ある日、鉄砲をかついで山に出掛け、藪(やぶ)にしゃがんで獲物(えもの)が来るのを待っちょったげな。 そしたら、ミミズが一匹出て来たと。 猟師がミミズに見とれちょると、どこからか蛙(かえる)が一匹出て来さって、パクッてミミズを呑んでしもたげな。 猟師がたまげて、その蛙を見ちょったら、こんだあ、蛇が出て来よった。 そして、ミミズを呑んだ蛙を、キュウッと呑み込んでしもうたげな。 猟師は、面白うなって、その蛇を見ちょると、こんだぁ、空から雉(きじ)が飛んできょって、スウッと下りて来るが早いか、その蛇をくわえて舞い上がって行ったげな。雉は、ええかげん高(たこ)う上(あ)がると、くわえちょった蛇を、パタッと落としたんじゃと。 それからまた、スウッと下りて来よって、落した蛇を、またくわえて舞い上がり、ええかげんのところで、また落したげな。 雉は、こんなことを三べんも、五へんもくり返しよったが、そうしちょるうちに、蛇はとうとう死んでしもうたんじゃと。 蛇が動かんようになると、クチバシでつついて、蛇をきれいに喰うてしもたげな。 ここまで見ちょった猟師は、 「ほい、ばかじゃった。早よう雉を射たんにゃあ逃げるがに」ちゅうて、鉄砲をかまえて雉を射とうとしたんじゃあ。  したが、ひょいと考えたげな。 「まてよ、蛇を殺してくうた雉を、わしが射って殺すと、次にゃ、このわしが、また何かに殺られてしもうじゃあなかろうかいのお」ちゅうて、気に掛かり出したげな。 目は、ずっと雉をねろうちょるのに、指の方が言う事きかいで、どうにも、こうにも引き金が引けんかったと。 とうとう、猟師は、雉を射つことが出来いで、鉄砲かついで山を下りてしもうたげな。 順めぐりが、恐ろしゅうなったんじゃ。 その猟師の耳に 「猟師よ、命をひろうたなぁ」ちゅう恐ろし気な声が響いて聞こえげな。 猟師はうしろも振り向かんと下りてしもうたげな その背中の方の空で、大きな目玉が二つ、金色に光っておったげな。 これきり べったり ひらの蓋。30『目ひとつ五郎』―鹿児島県熊毛郡― むかし、ある船が都で荷を積んで船出したそうな。 ところが、途中で風向きが変わって、船は、どんどん流されてしまったと。 いく日も、いく日もかかって、やっと見知らぬ島の入江に吹き寄せられ、いかりをおろすことが出来たそうな。 船の中には、飲み水が、もう、無くなっていたと。そこで、一人の船乗りが桶(おけ)をさげて陸(おか)に上がったと。 島は、しげしげと木におうわれているのになかなか水場が見つからない。水を求めて森の奥へ奥へと入り、ようやく泉を見つけたそうな。 ところが、船乗りが喜んでまず水を飲みそれから桶に汲み入れてひと休みしている時たった。うしろで物音がするので、ひょいとふり向いて心臓がはれつするほど魂消て終った。 「ウヒャ―、め、め、めひとつ五郎だあ」 何と、一つ目の大男が恐ろしげに船乗りを見下ろしておったそうな。しかも、その目は炎が燃えあがるようにギランと光っておる。 その泉は、目一つ五郎の水呑み場だったと。 船乗りは、地(ち)を這(は)いつくばって逃げようとしたが、腰が抜けてどうにもならん。 地面をひっかいているうちに、目一つ五郎の大きな毛むくじゃらの手がのびて首すじをむんずとつかまえられてしまった。 目一つ五郎は、船乗りをぶら下げて山の上へ上へと登って行き、やがて、岩がゴツゴツせり出した崖(がけ)の下にある洞穴(ほらあな)に着くなり、その中にポイと投げ入れた。 「人間とは久し振りだ。いいエサを見つけた」 そうつぶやくと穴の中で火を焚き始めた。  「こりゃぁ大変だぁ、丸焼きにされて食われちまう」 船乗りは、恐ろしくなって、洞穴の奥へ奥へとあとずさって行ったそうな。すると、奥には何やら大きな生き物が動きまわっておる。 暗さに目をならしてから見ると、それは、何十頭もの馬だったと。 船乗りは、その馬を見ているうちに、いい考えがひらめいた。 目一つ五郎は、ゴンゴン燃える火の側であぐらをかき、木を削ることに夢中になっている。 <あの木で俺らを田楽差(でんがぐざ)しにするつもりだな。そうはなってたまるか> 船乗りは、そおっと目一つ五郎の後ろから忍び寄ると、パッと飛び出し、まっ赤に燃えているまきを一本つかむやいなや、いきなり目一つ五郎の目に突っ込んだ。 「ギャ―」 ものすごい声をあげた目一つ五郎は、 「どこじゃぁ、どこにおる」と、わめきさけびながら手さぐりで船乗りをつかまえようとしたそうな。 が、船乗りは、その手をかいくぐって馬の間を逃げまわるので、いっこうにつかまらん。 業(ごう)を煮(に)やした目一つ五郎は、そのうち、 「こらぁ この馬共を出してしまわんば、あいつをとって食えん」 そう言って馬を一頭づつ外へ出し始めた。手で触っては「これも馬じゃ、これも馬じゃ」と出すんだと。 船乗りは、洞穴にあった馬の皮をかぶって、馬のあとからついていった。 すると、目一つ五郎はそれをなぜて、 「これも馬じゃ」と言って通してしまった。 船乗りは命からがら転がるように山を馳け下りたと。 やっと逃れた船乗りは、途中いそいで水場へ行って桶に水を汲み、船に戻ることが出来たそうな。 そいぎのむかしこっこ31『骨をかじる男』―北海道赤平市― 古い学校には、必ずと云って良い程怪談の一つや二つはある。開かずの便所とか、誰もいない教室からピアノの音がするといった話が多い。―これは、大正の頃のある旧制師範学校での話 その師範学校は男子(だんし)ばかりの全寮制になっていたそうな。 ある部屋の寮生(りょうせい)がだんだん顔色が悪くなり、やせて、授業を休んで寮で寝ているようになった。 同じ部屋の室長が心配して看病(かんびょう)してやったが、病気はますます悪くなるばかり。 そんなある夜のこと。 夜中に室長が目を覚ますと、その寮生がいない。 その夜は気にもせず寝たが、その次の夜も、その次の夜もいない。  「はて、毎晩、毎晩、夜中になるといなくなる。あんな病気の身体でどこへ行くのだろう」 室長は気になって、ある夜、寝たふりをして様子(ようす)をうかがっていたそうな。 真夜中になって、その寮生は、そおっと布団から抜け出すと、同じ部屋の寮生一人一人の寝顔をのぞきこみ、寝息を確かめると部屋を出て行った。 室長は、気づかれないように後をつけていったそうな。 階段を下り、渡り廊下をわたって便所に入った。 「なあんだ、やはり便所か」 階段を昇って戻るのはしんどいだろうからと、苦笑(くしょう)しながら待ってやったが、いっこうに出て来ない。 「おい、どうした」 と、便所の戸をたたいても返事が無い。 倒れていたら大変だから、戸を開けてみた。 便所はもぬけのからで、窓が開いていたそうな。 窓から外をのぞいた室長はギョッとした。 便所の裏手は、ゆるやかな坂道があって、念仏坂と呼ばれるその坂道は、山の中腹(ちゅうふく)にある墓地に続いている。 寮生は、念仏坂を登って、今、墓地に入ろうとしているところだった。 室長もあとを追い、墓の陰から寮生のすることを震えながら見ていた。 寮生は、今日埋めたばかりの新墓を掘り起こし、骨を取り出してかぶりついた。 ポリ ポリ ポリ ポリ 骨をかむ音が室長にも聞えて、おもわずあとずさった。そのとき、枯枝を踏んでボキッと音をたてた。 「見たなあ―」 ふり返った寮生のざんばら髪の顔は、何ともいえぬ不気味なものだったそうな。 室長は、どこをどう走ったか、ただもう、怖ろしい一心で部屋に逃げかえり、布団をかぶって身を固くしていた。 やがて、ミシッ、ミシッと、廊下を歩く寮生の足音が聞こえて来たそうな。 はじの部屋の戸を開けてのぞきこみ、 「ここでもなぁい」 次の部屋を開け  「ここでもなぁい」 隣の部屋を開け 「ここでもなぁい」 あとはもう室長のいる自分の部屋だけとなった。  ミシッ、ミシッと歩いて、ギィ―と戸を開けた、そのとたん。 「ここだあ」 いきなり室長の布団にまたがり、上からのしかかって来た。 室長は金しばりにあったように、身動きならず、声も出なかったそうな。 それでも、ようよう、ギャ―という声をしぼり出した。 寮生は、病気とも思えぬ速さで部屋を飛び出して行ったそうな。 次の朝、墓地で寮生の死んでいるのが見つかったと。32『山梨(やまなし)の怪(かい)』 ―新潟県新発田市― むかし、父さと嬶(かか)さと子がおった、嬶さの腹には、また子が出来ていたと。子を孕(はら)むと、口(くち)が変るって、嬶さ急に山梨(やまなし)が食いとうなってな、おっきな腹かかえ、もぎ袋、背に、うんこら、うんこら山へ行ったと、 いく山越えたかて頃、やっと大きな山梨の木があって、その下に 山梨がたぁくさん落ちていた、嬶さは「よがった、よがった」って、拾(ひろ)ったと。もぎ袋いっぱい拾ったと。 さぁて家行かねばと思ったらもうあたりは暗くなって来た。 しかたない、嬶さ山梨袋、木にしばって、朝まで待つ事にしたと。 するとな、遠くから、葬式(そうしき)の行列(ぎょうれつ)が ドンガンジャーン ドンガンジャーン「山梨の木どこだぁ、山梨の木どこだぁ」って、嬶さ「夜、夜中に葬式出すは、化け物だぁ」って、山梨袋忘れて、急(いそ)いで山梨の木に登ったと。だんだん近づいて来たと、見ても、見ても、音だけで、何も見えんて。「ここだぁ、ここだぁ」って、木の下、鍬(くわ)で、土掘って、死人埋(う)めたと。嬶さ「おっかねェおっかねェ」って木のてっぺんへごそごそ登って行ったと、その音聞きつけたか、「やれ、何者だ、取って食うぞう」って、冷たぁ~い手がヌルヌルって伸びて、嬶さの足つかんだと、ド―ンって嬶さ落されて、 食われてしまったと。 家じゃ、いくら待っても嬶さ帰ってこねし村中で探(さが)したが見つからん。とうとう、あきらめたと。こりゃ化け物のしわざじゃ云(い)うてな。 何年かして、子が「父さ、俺、嬶の仇(あだ)取りに行く」って鉄砲(てっぽう)かついで、山梨の木の下へ出掛けたと。 「ここが俺が嬶さが死んだとこか」って、待っていたって。暗くなって来た。そうしたら  ドンガンジャーン ドンガンジャーン「山梨の木どこだぁ、山梨の木どこだぁ」って、葬式の列がだんだん近づいて来たって。「それきた」って鉄砲、(ガ―ン)ってうったと。「ケラケラケラ―」当らんかったて、気味悪く笑うと、青い火、ボッボッて燃やして、近づいてまるんだと。「何者だ、取って食うぞう」 今度は、青い火めがけて、(ガン)って、うった。すると「ギャ―」って倒れたと。朝になると大むじなが一匹死んでいたと。 家へ帰って、村中御馳走(ごっつおう)して飲み食いしたと。  いずこ、むがしが、とっつぁげだ。  33『月・日・雷の旅立ち』―長野県― むかし、むかし、大むかし。 お日さまとお月さまと雷さまが、三人そろって旅に出かけた。 ところが、雷さまは生まれつき気があらいもんだから、行くところ行くところであばれ回ってしょうがない。どこの町へ行っても、 「雷さまがきたぞ―」 「へそをかくせ―」 「早くにげろ―」と、みんなに、こわがられてしまう。 お日さまとお月さまは、いいめいわくだった。雷さまといっしょだと、何もしないのにきらわれる。それで、お日さまとお月さまは、雷さまと旅をするのが、だんだんいやになってきた。ある町についたとき、「今夜は、ここに泊まろう」と、いうことになって、三人は、一けんの宿屋に泊まることにした。 すると雷さまは、 「どうれ、ひとあばれしてくるか」というと、外に出て行って、ピカッと光ると町はずれの大きな木を、バリバリッ、メリメリッと、たおしてしまった。 お日さまとお月さまは、宿で相談をした。 「もう、雷さにはがまんできん。明日からは二人で旅をしょう」 「そうしょう、そうしょう。あんなあばれ者はおいて行こう」 次の日、お日さまとお月さまは、雷さまを置いて、朝早く宿を立って行った。 雷さまは朝ねぼうなので、ぐっすりねこんでいる。 雷さまがようやく目をさましたころには、あたりは、もうとっくに明るくなっていた。ねむい目をこすりながら部屋の中を見回すとお日さまとお月さまがいない。 「きのうの夜は三人で寝たのに、わし一人しかいない。おかしいなあ、二人はどこへ行ったんだろう」 雷さまは、宿の主人をよんだ。 「お日さまとお月さまはどうした」 「はい、お日さまもお月さまも、ずっと前にお立ちになりました」 それを聞いた雷さま、 「そうか、う―ん。月日の立つのは早いもんだ」 宿の主人は、おそるおそるたずねた。 「あなたさまは、いつお立ちになりますか」 すると、雷さまは、すましてこう言うた。 「おれは雷だから、夕立ちだ」  それっきり。 34『腰折(こしお)れ雀(すずめ)』―岐阜県― むかし、あるところに、とても優しいお婆さんがおったと。 ある日のこと、お婆さんが庭に出てみると雀(すずめ)が一羽、飛び立つことが出来ないでバタバタしとる。そおっと近づいて手にとってみると、雀の尾っぽ羽が折れとるんだと。 「おお、おお、可哀そうに」 お婆さんは、雀の尾っぽ羽に薬をぬり、小んまい添え木を当ててやったと。籠(か)の中に入れて、水をやったり米を食わしたり、まめまめ世話したと。 だんだん雀は元気になり、そのうち、すっかり治ったと。 お婆さんは、ぽかぽかした日に雀を籠から出し 「けがが治って良かったなぁ、さあ早よ、お父っつぁんとお母っつぁんのところへ飛んで行き」ちゅうて、放してやったと。 雀は、ちょっとの間(ま)バタバタしとったが、すぐにどこかへ飛んで行ったと。 ひと月ほどたってから、お婆さんの家の庭にいつかの雀が来て、チュン、チュンとしきりに呼ぶそうな。 「おお、また訪ねてくれたかいや」と、お婆さんが庭に出ると、 「この間は、大けがをしているところを助けて下さいましてありがとうございました。今日は、お礼に来ました」ちゅうて、お婆さんの前に、何か種のようなものを一粒ほろんと落としてくれたと。 「あれまあ、それはそれは、ありがとう」 お婆さんが庭に蒔(ま)いておいたら、それが芽を出して、すんすん伸びて、葉は茂るし、花も咲いて、たくさんの実がなった。見事なひょうたんだったと。取り切れんほどだったと。 「こりゃ、すごい、近所にも分けちゃろ」ちゅうて、配った残りを、五つ六つ、倉の中にぶら下げておいたんだと。 秋になって、よく熟(う)れて皮が堅(かた)なってから下そうとしたら、そのひょうたんがズッシリ重いんだと。抱(かか)えきれんから縄(なわ)を切って落としたと。 不思議に思って、ひょうたんのヘタを切って中を覗(のぞ)いて見ると、中には、真白い米がいっぱい入っておったと。 「これもじゃぁ、これもじゃ」 米は、食べても食べても尽きないのだと。 お婆さんは、米を売って、毎日、花を作ったり、子供に話を聞かせたりして、一生安楽に暮らしたと。 しゃみしゃっきり。35『風の神と子供』 ―新潟県―とんと昔あったと。 ある秋の日、村の鎮守様(ちんじゅさま)のところで子供たちが遊んでいたと。そこへ、村ではついぞ見かけたことのない男がふらりとやって来て声をかけたと。 「お前たち、ここで遊んでいても何も食うものがないねかや。栗や柿や梨がたくさんあるところへ遊びに行きたくねえか。あきるほどあるぞ」 「ほんとかい、うそこくでねえど」 「ほんとだとも」 「俺らそんげなところなら行きてぇ、なあ」 「うん、俺らも行きてぇ」 「俺らも」「あたいも」 「よし、そんじゃ俺が連れてってやる。さあ、お前たち、これにまたがってしっかりつかまってろよ」と、その男は尻のところから尻尾(しっぽ)のような長いものをずるっと出して、ふり向いて言うのだと。 「みんな乗ったか」 「ああ、みんな乗った」 みんなが答えると、ゴ―ッとひと風吹かせて、空に舞い上ったと。 空をずらずら飛んでしばらくすると、栗やら柿やら梨やらがどっさり実(みの)っている所へ下ろしてくれた。そして、またひと風吹かせて栗やら柿やらをバタバタ落としてくれるんだと。みんなは喜んだのなんの、たらふく食っては遊び、また食っては遊びしてらたと。 やがてあたりが暗くなりかけると、男は、 「うっかりしているうちに、へえ、夕方になってしもた。俺れはこれから大急ぎでほかのところへ行かなきゃなんない。お前たちだけで家へ帰れや」と、言いおいて、早い風に乗ってどこかえ行ってしまった。 見も知らぬ山で子供たちはエンエン泣いとった。あたりはもうまっ暗。すると遠くに明かりがひとつポ―ッとともった。 「あっ、あそこに家がある」 みんなで、からだをくっけ合ってその家へ行くと、中に、こえこえ肥(こ)えた大っきな婆さんがおらしたと。 「お前ら、どっからきたや」 「俺らたち、よそのおじさんに長いもんに乗せられて風に乗ってここに来たんだ。栗やら柿やら梨やらをうんとごっつおになったけど、そのおじさんがどっかえ行っちまって、俺たち家に帰ることできん」 「そうか、その男は、きっとうちのよくなしおじの南風(みなみかぜ)だよ。ほんとに気まぐれなんだから。でもね案じることないよ、じきにうちの北風って子にお前らを送らせるからね。俺らは風の神の親さ」 そう言って子供たちを家の中へ入れ、白いまんまと熱い豆腐汁(とうふじる)をごっつぉしてくれたと。 みんながぬくもったところで風の神の親は 「これ、あんにゃ、起きれ、起きれ」 と寝ていた北風を起こしてくれた。 みんなは、北風の尻尾に乗せてもろうて、やっぱし風を吹かせて村に帰って来たと。 村では夜になってもこどもたちが帰って来ないので、大騒ぎしてそこいら中を捜している所だったと。そこへ北風が吹いて空から子供たちがかえったので、村中大喜びしたと。  いちごさけた どっぴん なべのしたがらがら。36『ダンゴ ドッコイショ』―神奈川県― むかし、 ある村に、ちょっぴり頭の弱いムコさんがおった。 あるとき、ムコさんは、山一つ越したヨメさんの実家へ、ごちそうによばれて行った。 ヨメさんの親は、よろこんでよろこんで、ヤレ食え、ソレ食え、とダンゴをたあ―んとごちそうしてくれた。 ムコさんは、出されたものがあんまりうまいので、ムシャムシャ食いながら、 「こんなうまいもんは、はじめてだ。これはなんというものだ」とたずねた。すると、ヨメさんの親は、 「これは、ダンゴというもんだ。お前さんとこにヨメに行った娘は、ダンゴ作りが上手だから、帰ったら作ってもらいなされ」というた。 それを聞いたムコさんはうれしくてたまらん。忘れちゃならんと思うて、ヨメさんの実家にいる間じゅう 「ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ」と大声で言うていた。帰り道も忘れんように 「ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ」と言いながらあるいていた。 そうしたら、小川があったので 「ドッコイショ」とかけ声をかけて小川を飛びこした。すると今度は、 「ドッコイショ、ドッコイショ、ドッコイショ、ドッコイショ」と言いながら家に帰って行った。 やっと自分の家に着いたムコさんは、いきなりヨメさんに 「お前の実家でドッコイショという、うまいもんをごちそうになった。すぐにドッコイショを作ってくれ」と言うた。ところが、ヨメさんはなにがなんだかさっぱりわからん。 「ドッコイショってなんだ」と聞き返すと、 「お前の親が、お前はドッコイショの作り方が上手だと言うていたのだから、知らんはずはない」 「そんなこと言うても、ドッコイショなんて知らん」 二人で言い争いをしているうちに、ムコさんはとうとうおこってしまい  「これほど言うても分からんか」と言うと、ヨメさんの頭を思いきりぶんなぐった。たちまち大きなコブが出来た。 「あいたたたぁ、頭にダンゴのようなコブができた」 ヨメさんが言うと、ムコさんは、ハッと気がついて、 「おお、そうだ、そのダンゴのことよ」 こう言うたんだと。  いきがさけた 37『死神様(しにがみさま)』―山形県― 昔、あるところに運の悪い男がおったと。 ある年(とし)の瀬(せ)に、男は隣り村へ用足しに行って帰りが夜中になったと。 林の中の道を、木がざわざわするたんびに立ち止まり立ち止まりして歩いて来たら、向こうの木のカブに黒い着物の年寄りが腰掛けておったと。 「こりゃちょうどええ道連れがでけた。おおい、そこのおひとよぉ」 男が近寄ると、年寄りはやせこけた真っ青な顔でにたり笑いしたと。 「わしを呼んでくれたかや」 「こんな夜更(よふけ)に年寄りの一人歩きは危ねえ、何が出るか知れたもんじゃぁねぇ。俺らがついてってやる」 「それは手間がはぶけた」 男は、ン?と思ったが二人連れだって歩いたと。 「ときに父(と)っつぁん、お前(めえ)さん、どこのおひとでどこへ行きなさる」 「ヒヒ、わしか、わしは死神で、お前を待っていたところだ」 「死、死神だと。俺ら、俺らに何の用だ」 「ヒヒ、わしの用と言ったらきまっちょる。おうおう、そんなに目をまんまるにして」 「お、俺ら、お前に用ねえ。お前なんぞ知らん」 「そんなに嫌うな。今日は予告編だから、今すぐどうこうしょうというんじゃない。お前のことをよおく調べたら、お前は今まであまりにも運がなさすぎる。このままでは連れて行き甲斐(がい)がない。そこで、ちいっとはいいめにあわせてやろうと思ってな」 「いいめって何だ」 「金儲(かねもうけ)けをさせてやろう。お前は明日から医者になれ。わしはお前にだけ見えるように姿を現わすから。病人の頭の方にわしが現れたらその病人は助かるが、尻の方に現れたら、こりゃ駄目(だめ)だ。助かるようだったら呪文(じゅもん)を唱(とな)えたらいい」 「アヤラカモクレン カンキョウチョウ テケレッツノパア」と呪文を覚(おぼ)えた男が、次の日医者をふれこむと早速長者の家から頼まれたと。 男が病人の横に座っていると、死神が病人の尻の方にポ―と現れた。 <ありゃ、初仕事というに尻の方じゃ金にならん> 男は病人をかかえると頭と尻とをくるりと取り替えた。そして 「アヤラカモクレン カンキョウチョウ テケレッツノパア」  呪文を唱えると病人は「あ~、よく眠った」と起きあがったと。 男が長者の家からたくさんの金をもらい、ごちそうにもなって出てくると、死神が物かげに隠れて待っていたと。 「わしをあざむくなんてひどい奴だ。お前の寿命は、これでまた縮んだじゃないか」 「あとどれくらいだ」 「見せてやる」 男が死神について土の中に入っていくと、ロ―ソクがいっぱいともっていたと。 「このロ―ソクは人の寿命というもんだ。このロ―ソクが燃(も)え尽(つ)きたときにゃ、死ぬんだ」 「俺らのローソクはどれだ」 「ほらこれだ。お前がわしをあざむいたので、ロ―ソクが短かくなってしまった」 「こりゃ困った。何とかならんか」 「わしのが長いから、少し分けてやる」男は喜んでロ―ソクを継ぎたそうと息をとめようとしたら、思わず、ふうっと吹いてしまった。 「ありゃ、消えた」どんびんからりん すっからりん。038『ほらくらべ』―新潟県― 昔、江戸のほら吹きが越後(えちご)のてんぽこきのところへ、ほらくらべにやって来たそうな。 ところが、その時はちょうど越後のてんぽこきが留守だったので、その子供が出て来たと。 「お父つぁん、おらんか」というと、子供は 「あののし、うちのおとっつあんは、この前の風で弥彦山(やひこやま)がかしがったんで線香三本持って、突っかい棒をかがいに行った」と言う。江戸のほら吹きは、 「こいつは、子供のくせして、なかなかやるわい」と思いながら、 「母ちゃんはどこへ行ったな」と聞くと、 「かかさはな、天竺(てんじく)が破れたんで、虱(しらみ)の皮ぁ三枚持って、つぎに行かした」と言う。江戸のほら吹きは、 「そうかい、そいつはごうぎなことだ」と、言いながら、そんなら、この子供をへこましてやろうと思って、 「実はな、このあいだの風で、奈良の大仏さまの鐘がこのへんに飛んで来たはずなんだが、お前知らんかい」 とやってみた。 ところが、子供はすぐに、 「あぁ、そんなら俺らん家(ち)の、裏の蜘蛛(くも)の巣に引っかかってら」と返した。 これには江戸のほら吹きもさすがにおどろき、 「子供ですらこんな調子じゃぁ、親はさぞかし、とんだ大ぼら吹きにちげぇねぇ」と、舌を巻いて帰ってしまったそうな。 いきがさけもうした なべのしたガラガラ。 39『正月神様(しょうがつがみさま)』―徳島県― むかし、あるところに爺さと婆さがおって正月神様がおかえりになる日に雨がドシャドシャ降ったと。 爺さと婆さがお茶をのみながら、 「この雨はやみそうにもないのう」 「ほんに、正月神さんもなんぎされてござらっしゃるじゃろ」と話しておったら、間がええちゅうか、そこへ七人の正月神様がかけこんで来たそうな。 「爺さ、爺さ、笠(かさ)か蓑(みの)をかしてくれぬか」というので、爺さと、婆さは家中(いえじゅう)をさがしたと。 蓑と笠を四つみつけて、四人の神様にお着せもうしたが、残り三人には着せるものがないのだと。 もいちとさがしたら、古いバンガサが二本見つかったと。二人の神様に差しあげたが、どうしても一人分たりない。 そこで、一枚だけ残しておいた爺さが仕事をするときにきた着る合羽(かっぱ)を差しあげたそうな。 七人の神様は、礼を言って雨の中をかえっていかれたと。 爺さと婆さは、 「まず今日は何よりも良いことをした」と、こころほかほかして寝たそうな。 それからしばらく何の変わったこともなく、春夏秋冬ときて、また大晦日(おおみそか)をむかえたそうな。 大つごもりの晩に、爺さと婆さが「年越しの用意も出来ぬし困ったわい」と話していると、外で話し声が聞こえて、また七人の正月神様が入って来られたそうな。そして、 「爺さ、婆さ、せんだってはありがたかった。お礼にお前たちに福を授けに来た。何が欲しい」という。爺さと婆さが、 「わしんちはこんな貧乏な家じゃけ、年を越せんでこまっちょった。年を越せるだけの金と米があればええ」とありがたがると、七人の正月神様は打ち出の小槌(こづち)をくれたそうな。そして、 「この小槌を打てば、何でも好きなものを出せる」といって出て行かれたと。ところが、七人の神様のうち、一人の神様があとに残って  「爺さ、婆さ、まだ欲しいものがあるのではないか」ときくのだと。 その神様は、爺さの合羽を差し上げた神様だったそうな。 爺さと婆さは 「やや子が欲しい」というたと。 「それでは、明日の正月の朝がきたら”おめでとうございます”と二人があいさつさえすれば若返るから、それからややこをつくるがよい」と言うたそうな。そうして、その神様も出て行かれたと。 元旦の朝になって、言われたとうりあいさつすると、たちまち二人は十七、八の若者とあねさんになったと。 それから二人は、ややこも授かって、お米もお金も出して一生安楽に暮らしたそうな。 むかしまっこう。40『継子(ままこ)のイチゴとり』―福井県―むかし、むかし。 あるところに、お千代とお花という姉妹(あねいもうと)がおった。お千代は先のおっ母さんの子で、お花は後のおっ母さんの子であったと。 後のおっ母さんは、継子(ままこ)のお千代がにくうてにくうて、いっつもいじめておった。 ある冬の寒い日のこと。お花が、 「母(かあ)ちゃん、イチゴが食いたい」というと、後のおっ母さんは、お千代に、 「弁当やるから、山のイチゴをとってこい」と言いつけた。 お千代は、いやと言うとまたいじめられるので、しかたなく弁当とカゴを持って山へ行った。 山には雪がたぁんとつもっているから、イチゴなんかあるはずがない。 お千代が雪の上を、あっちころび、こっちころび歩いて行ったら山小屋があった。ひと休みしょうと中に入ると、お爺さんが火をたいておった。 「こんな雪の山に何しにきたんじゃ」 「おっ母さんが、イチゴをとってこい、言うからきた」 「そうか、そうか、寒いだろう、まぁ―ず火にあたれ」 お千代は火にあたりながら、 「お爺さん、弁当たべてもいいか」 「いいとも、いいとも」 お千代が弁当をひろげると、米が一粒(つぶ)もないヒエのおにぎりが一(ひと)つ入っていた。それを見たお爺さんは、 「わしに、ちいっとくれんか」とお千代に言うた。  「これでよかったら、みんなあげる」 「いい子やなぁ。お前、イチゴをとりに来たのなら、小屋の前の雪の消えたところへ行ってみな」 お爺さんにそう言われたお千代が、小屋を出ると、雪の消えたところにまっ赤なイチゴが出ておった。 お千代はうれしくってうれしくって、カゴいっぱいにイチゴをとって家へ帰ったんだと。 そうしたらおっ母さんが、 「お千代、この寒い冬にイチゴをどこからとってきたんじゃ」と、ふしぎそうにいうので、お千代は、山小屋のお爺さんのことを話してきかせた。 それを聞いたお花は、 「明日は、おらがイチゴをとりに行く」といいだした。 次の日、お花は、おっ母さんにこしらえてもらった弁当とカゴをもって、山小屋のお爺さんのところへ行った。 「おら、イチゴとりに来た」 「そうか、そうか、寒いだろ、まぁ―ず火にあたれ」 お花は火のそばに行くと、何も言わずに、弁当をひろげはじめた。中には、うまそうな米のおにぎりが二つ入っていた。それを見たお爺さんは 「わしに、ちいっとくれんか」とお花に言うた。 「いやや、これはおらのだから、お爺さんにはやれん」 お花は、二つのおにぎりをムシャムシャ食べてしもうた。そうしたら、お爺さんが、 「お前、イチゴをとりにきたのなら、小屋の前の雪の消えたところへ行ってみな」と言うので、お花が小屋を出ると、雪の消えたところにまっ赤なイチゴが出ておった。それで、お花はカゴいっぱいにイチゴをとってよろこんで家へ帰ったんだと。 ところが、お花がおっ母さんといっしょにカゴをあけてみると、ヘビやカエルやムカデがいっぱいでてきたんだと。 そうらいべったり かっちんこ。41『娘(むすめ)の助言(じょげん)』―山形県―むかし、あるところに大分限者(おおぶげんしゃ)がおって、ひとり娘に聟(むこ)をとることになったと。 聟は村の衆から選ぶことになって、村中に高札をたてたと。 「自選他選を問わず。われこそはと思う者来(こ)られたし。来た者には金一分(きんいちぶ)をあげます」 大金持ちでとびっきり美しい娘となりゃあさわがない方がおかしい。村の中は、この話でもちっきりになったと。 いよいよ聟選びの日、村は、ワイワイガヤガヤ、まるで祭りのようだったと。  大分限者は、 「どれ、ちょこっと見てこよう」と、門の外へ出ておどろいた。 「ありゃあ」 聟選びだというのに、子供から女房持ち年寄りまで、村中の男という男がこぞってやって来とったと。そして、 「御当主さまあ、聟になれんでも一分はもらえるのう」 「もらえるのう」と、くちぐちに言うんだと。 やがて聟選びが始まり、年寄り子供は一分づつもらって見物にまわったと。 聟選びは、最後に三人の男が残ったと。 そこで大分限者は、 「裏山から松の木をころがすから、下でおさえてみよ」と、言いつけた。 はじめの一人は軽そうに受け止め、次の者もこわごわ受け止めたと。三人目の男は、順番を待つ間に大分限者の家の裏側で、 「こいづは困ったこんだぞ。へたすると死んじゃうなぁ」と、尻込みしていると、どこからか子守唄がきこえてきた。   う―らの 松の木 どんころは   紙でこさえた どんころだぁ おとこは、紙ならどうってことはない、と、なんなく受け止めたと。 これで決まらなかったので、次に大分限者は俵(たわら)を二つ下男に持ってこさせて、三人の男に 「この二俵の中に、何がどれほど入っているか言い当てよ」と、言いつけた。 はじめの一人は当てづっぽうを言い、次の者も当らなかったと。 三人目の男は,順番を待つ間、また家の裏側へ行って 「さっぱりわからん」と、考えていると、また子守唄がきこえてきたと。   あ―わと き―びと 一斗五升だあ  男は、どうせわからんのだ、あれを言っちまえ、と、 「アワとキビが一斗五升づつ入っている」と言うと、その通りに当たって、とうとう聟殿におさまったと。 祝言が終って嫁さんが言うには、あの子守唄は、実は嫁さんが手伝いの娘に歌わせたんだと。  とっぴんぱらりのぷう42『最後のうそ』―福井県― むかし、あるところに、とほうもない嘘つき爺がおったと。 爺の若い頃、近所の人が嫁さんを世話しようとしたら、相手の娘っこに、 「エ―あの人ぁ、そんなあ、うそでしょ、おらやんだぁ」 と言われたと。それからこっち、女房もなくずうっとひとりで暮らしておったと。 あんまり嘘ばっかりつくので、村の人達もあきれて、だんだん相手にしなくなったと。 だぁれも近づく者がいなくなると、嘘つき爺は、 「嘘袋(うそぶくろ)がサビつきそうだ。あぁあ嘘つきてえなぁ」と、毎日、ブッツンコブッツンコつぶやいておったと。 あるとき、嘘つき爺が病気になって、とうとう死ぬばかりになったと。 が、だぁれも見舞ってくれるものがない。 そこで爺は、近所の衆や、親せきの者たちを集めて 「おらは、まもなく死んでいくだ。皆の衆には世話になったで、小遣いをためた金が庭の柿の木の下さ埋めてあるのじゃ。それ、皆(みんな)で分けてくろ。それにしても、死ぬ前に熱い粥(かゆ)の一杯(いっぺエ)も食(く)いてえなぁ」と言ったと。 これを聞いた村の衆と親せきの衆は、 「死ぬ際(きわ)まで、まさか嘘はこくめえ」と、いろいろ介抱(かいほう)してやったと。嘘つき爺は熱い粥を腹いっぱい食べて死んでいったと。 野辺送りもしてやってから、みんなは庭の柿の木の下を掘ったと。そしたら爺の言葉通りに小さい箱が出てきたと。 「ちょっくら開(あ)けてみなんし」 みんなは、ワクワクしてそのふたを取ってのぞきこんだと。 そしたら、何とまあ呆れたことか  ――うそのつきじめえ――と書いた紙切れが入れてあったと。 そうらいべったり貝の糞   かち栗数えてへんころへんころ 43『そこつ そうべえ』―広島県― むかし、むかし、あるところに、そうべえさんという、それはそれはそそっかしい男がおった。 あるとき、そうべえさんは、一つ山を越えた町のお宮さんへおまいりに行こうと思いたった。そこでカカに、 「明日の朝、町のお宮へ行くから、弁当を作って、枕元に置いておけ。」といいつけた。 次の日、目をさましたそうべえさん、そばにある弁当を急いで風呂敷(ふろしき)につつんで家を出て行った。 山道を歩いていると、ズル―、カタッ、ズル―、カタッと歩きにくい。よ―く足元を見ると、片方にぞうり、片方に下駄(げた)をはいている。これはしくじったと思うたが、しかたがない。そのまま、ズル―、カタッ、ズル―、カタッと町まで歩いて行った。 お宮さんについたそうべえさんは、財布(さいふ)から一文(もん)を出して、ポ― ンと賽銭箱(さいせんばこ)に放り込んだ。ところが、ガチャと妙な音がした。よく見ると、手には一文が残っている。間違えて財布を賽銭箱に放り込んでしまったわけだ。 しまった、と思っても、もう遅い。そうべえさんは、ブツブツいいながら、お宮さんの境内(けいだい)で昼飯を食べることにした。風呂敷をあけると、なんと、中からは、枕が出てきた。 「うちのカカは、弁当と間違えて枕をよこした。こんなもんが食えるか。」と、おこってはみたものの、もう、どうにもならん。 さあ、弁当はないし、腹はすくし、そうべえさんは弱ってしまった。しかたなく、家へ帰ろうとすると、まんじゅう屋があって、うまそうなまんじゅうがならんでいる。大きいのもあるし、小さいのもある。 「おい、このまんじゅう、なんぼだ」 「へい、どれも、一文でごぜえます。」 それを聞いたそうべえさん、にこっと笑って、一文を渡すと、一番大きなまんじゅうをつかんだ。 「もし、それは、」 「これでいい、これでいい。」 そうべえさんは、後もふり返らず、一目散にかけ出した。しばらく行ったところで、そのまんじゅうをパクリと食べると、ガリッと音がして、前歯がかけてしまった。よく見ると、そのまんじゅうは、瀬戸物で作った見本のまんじゅうだった。 腹を立てて家に戻ったそうべえさんは、いきなり、カカの頭をゴツンとぶんなぐった。 そうしたら、 「そうべえさん、何なさる。」という声が、カカの声と違う。よく見ると、となりのカカであった。自分の家とまちがえて、となりの家に入ってしまったわけだ。またしくじったと思ったそうべえさんは、あわててとなりの家から飛びだした。 そのとき、とつぜん、ゴロゴロゴロ―、ゴロゴロゴロ―。とかみなりがなった。おどろいたそうべえさん、今度は自分の家に飛びこんで、 「ただいまは、どうもすんません、どうもすんません」と、自分のカカに、何度も頭をさげてあやまったんだと いっちごさっけ。 44『絵姿女房(えすがたにょうぼう)』―鳥取県― むかし、あるところに山の木こりがおって、とっても器量良しの娘をもらったそうな。 好いて好いてこがれてもらったので、ちょっとの間も離れることが出来ん。仕事もせずに女房の顔ばかりながめておったと。 女房は心配して、 「おらの絵姿を描いたるけえ、それを持って山へ行かっしゃい」と、紙を出して自分の顔をさらさら描いたと。 絵は、いまにも口(くち)でもきくかと思えるほど生き写しだったと。  木こりは喜んで、絵姿を山へ持って行き、木を伐るそばへ置いて、伐っちゃぁ見、伐っちゃぁ見しておったと。 そしたら、そこへ、大風がぶぶわぁと吹いた。 「おい、待て待て」 大風は絵姿を飛ばしも飛ばしも京のお城のお殿さまのところまで飛ばしたと。 「こりゃあ大変じゃあ。あの絵姿を見て、こがなええ女房があるかと知ったら、誰が盗みに来るかわからん」 木こりはあわてて家へ戻り驚く女房を背負(おぶ)て、どんどこどんどこ連れ逃げたと。 何日めかに、ある林を通っていると足もとには栗がいっぱい落ちとったと。 「ちょっとここへ腰掛けとれ、栗ィ拾って来る」 木こりは、女房を木株におろして、栗を拾って先へ先へと行ってしまったと。 ところで、京の殿さまは飛んできた絵姿を見て、さっそく家来に言いつけた。 「こがなええ女があるなら、ぜひとも連れて来い。わしの女房にする」 そこで、大勢の家来が絵姿を持ってあちこち捜しまわっとったと。 ちょうど栗の落ちとる林まできたら、絵姿そのままの女が木株に腰掛けとった。 「おお、これだ、これだ」 家来は、いやおうなしに女房を馬に乗せて連れて行ってしまった。 そのころ、栗拾いに夢中になっていた木こりが 「そうじゃ、大事な女房を一人で置いとった」と気づいて、あわてて引き返してみたら、女房の姿が見えん。 「こりゃあ誰ぞにさらわれたにちがいねえ」 あっちこっち捜し歩いたと。 そのうち、京のお城にべっぴんの女房がいるらしいという噂を聞いた。 木こりは、それこそ俺らの女房にちがいない、と思い、それこそ俺らの女房にちがいない、と思い、ほうろく茶釜を沢山買って、ほうろく売りになって京のお城へ行ったと。 お城の門の前を何度も何度も行ったり来たりしながら、山できたえたノドで、 「ほうろくやぁ」 「山の木こりのほうろくやぁ」 「ええ―ほうろくやぁ」と、呼ばったと。 お城の中の女房は、その声を聞いてにっこり微笑(ほほえ)んだと。 それを見た殿さまは、笑顔ひとつ見せたことのない女房が初めて微笑(わら)ったから、嬉しくなって聞いた。 「ほう、ほうろく売りが面白いか」 「はい、ほうろく売りを見たい」 殿さまは、これまた初めて口をきいてくれたのでいっそう嬉しくなった。「よし」と膝(ひざ)を叩いて、さっそくほうろく売りを呼び入れ着物を取り換えたと。 ほうろく売りになった殿さまは、 「ほうろくや、ほうろくや」と、呼んでまわった。 女房はころころ笑ったと。 調子に乗った殿さまは、門を出たり入ったりしとったと。 その内、夜になって門番が門を閉(し)めてしまった。殿さまはあわてて門番に、 「わしじゃ、わしじゃ、ほうろく売りじゃ、いやちがう、わしじゃ」と言うけれども、門番はとりあわんのだと。  そうやって、殿さまはほうろく売りになってしまうし、木こりは殿さまになって、好(す)いた女房と一生お城でええ暮らしをしたそうな。 むかしこっぽり。 45『飴(あめ)は毒(どく)』―高知県― むかし、あるところに、とってもケチな和尚(おしょう)さんがおったげな。 カメに水飴(みずあめ)を入れて、ひとりでなめているんだと。小坊主(こぼうず)が 「私にも」と言えば、 「これは毒じゃ」と、仏壇(ぶつだん)の下にかくすんだと。 あるとき、和尚さんが、檀家(だんか)に法事があって行くことになったと。そんで、 「あの仏壇の下の戸を開(あ)けたらおおごとぞ、あっこにゃぁ、毒を置いちゃるけ」言うちょいて、出ていったげな。 和尚さんが出て行くと、じきに、かしこい小坊主が、和尚さんが一番大事にしよる牡丹(ぼたん)の鉢(はち)を、板の間へぶっつけて割ったと。 そしたら、他の小坊主らがびっくりして、真(ま)っ青(さお)になったと。 けんど、その小坊主は平気のへいざで、 「さあ、これから、あの仏壇の下の水飴をなめようや」と言うて、みんなを連れて行って、指をつけては、 「うまい、これはうまい」ちゅうて、なめてしもうたと。 そうしているうちに、和尚さんが戻って来てみると、あの大事な牡丹の鉢が割れちょる。 真っ赤になって、 「この鉢を割ったのは、いったい誰ぞ、ここへ出てみよ」言うて怒ったげな。 そしたら、かしこい小坊主が、和尚さんの前へ出て、 「私が、和尚さんの大事な大事な鉢を割りました。死んでおわびをしょうと思うて、仏壇の下の毒をなめてみましたが、まだ死ねません。けれど、もうじき毒が身体にまわって、じき死ぬろうと思いますけ、どうぞ、こらえてつかっさい」言うて、涙をポロポロ出して、泣きじゃくったげな。 他の小坊主も、水飴をなめたけんど、自分ひとりがなめたように言うて、罪をかぶったと。 和尚は、どうも芝居(しばい)くさいと思うたが、いまさらあれは水飴じゃ、とも言えんで、ハツタイ粉を作って、 「解毒(げどく)の薬じゃ」ちゅうて、小坊主に飲ませたげな。 こげなかしこい小坊主じゃったけに、後には、たいそう偉い坊さんになったそうな。  むかしまっこうたきまっこう   たきからこけて猿のつびゃぁ  ぎんがり。 46『一寸法師(いっすんぼうし)』―新潟県― 一寸法師のお話は知っていますね。 小さな法師が打ち出の小槌で大きくなって、のちに立派な侍になるお話。 このお話のもとは、今から約六00年前、室町時代の『お伽草子(とぎぞうし)』という本に載っています。古い話しなんですね。 民話の方では、すこしその筋を変えて、素朴なままの姿で全国の各地に伝わって来ました。 今週は、そんな一寸法師を。 昔、あるところに、子供のいないお爺さんとお婆さんがあった。 あるとき、 「どうか、指の腹のような子供でもいいから、授けて下さい」と、村の鎮守様(ちんじゅさま)にお願いしたそうな。 するとしばらくして、お婆さんのお腹(なか)が、吹きでものみたいに、ちょことふくらんで、親指ほどの小っちゃい男の子が生まれたそうな。 そこで一寸法師と名付けて大事に育てたと。が、いっくら食べさせても、その子はおおきくならない。 お爺さんとお婆さんは心配になった。 「いづれ、わしらが死んでおらんようになったら、お前は暮らしがたたんじゃろ。今のうちにどこかへでも行って来いや」と言うて、ひまをくれたと。 すると一寸法師は、 「箸(はし)を一本、あみ笠を一枚、麦わらと針(はり)を一本おくれ」と言って、あみ笠を舟にして、箸を櫂(かい)にし、麦わらの鞘(さや)に針の刀(かたな)を差して川を流れて行った。 ちゃっぷり、ちゃっぷり流れて、ようやくある岸辺(きしべ)にただよい着いたと。 そのあたりの庄屋の家へ行き、 「ごめん・・・」と、声をかけた。 家の者が出て来たが誰もおらん。 「ここじゃ、ここじゃ」 家の者が、いぶかいながら足駄(あしだ)を取ってみて驚ろいた。 「お―や、こんなこんまいのが出たがの」 奥へ走っていって旦那につげると。 「それは、まあ、庭掃(にわは)きにでもしておけ」と言う。 一寸法師は、庄屋の庭掃きになったそうな。  小んまいホ―キを作ってもらって庭掃きするのだが、掃いても掃いても掃ききれんて。 それでも、くる日もくる日も庭掃いとったって。ある時、庄屋の娘が浅草の観音様へ、おまいりに出かけることになった。 その時のお供(とも)に一寸法師をつけてやったと。 道中の途中で、大きな鬼が出て来て、娘と一寸法師をひと呑みにしょうとした。 娘はびっくりして木の蔭(かげ)から蔭へ逃げたと。 小んまい一寸法師は鬼に呑まれて、鬼の腹ん中へ入って終ったと。 腹ん中に入った一寸法師は、 「どりゃ、こんだ、俺(お)らが仕返しをしてやろ」と、針の刀で鬼の腹ん中のそこいらぢゅうをシクシク、チクチク突きまわったと。 「あいてて、あいてて」 鬼は、痛いやら苦しいやら、一寸法師を吐き出すと、あわててどこかへどこかへ逃げて行ったと。 鬼の腹から出た一寸法師が、あたりを見まわすと、そこに打出の小槌(こずち)が落ちていた。 「おや、これはなんだ」と、小槌のまわりを回っていると、逃げた娘がおそるおそる戻って来た。 「あれよかった。生きとったか」 「これは打出の小槌でねか、鬼があわてて落としていったものだな。」 「どんなもんだ」 「何でも欲しい物を言って振れば、望みのものが叶うちゅう宝物でねか」 「そんなら、俺ら、金も米もいらん。俺らの背ぇ出ろ、背ぇ出ろって振ってくんねぇか」 娘は 「小法師(こぼうし)の背ぇ出ろ、小法師の背ぇ出ろ」と言って振ると、一寸法師の背丈が、ずん、ずん、と伸びて、娘の好みの大きさでとまったと。 普通の人より少し大きい男になってみたれば一寸法師は顔がととのうて、いい男だったと。 一寸法師は、その庄屋の聟どのになって、一生安楽に暮らしたそうな。  いちご さかえもうした。47『古屋(ふるや)のもり』―岩手県― むかし、山奥の家で、爺さまと婆さまが、一匹の馬を飼っておった。 ある雨がざんざ降りの夜に、虎がやってきて、馬をとって食おうと馬小屋にしのびこんだ。 家の中では、爺さまと婆さまが、 「婆さま、お前、世の中で一番おっかねぇもんは何だ」 「そりゃぁ、虎だ。世の中で虎が一番おっかねぇ。爺さまは、何がおっかねぇ」  「こんな雨のふる夜は、虎よりか”古屋(ふるや)のもり”がなによりおっかねぇなぁ」と話しておった。 それを聞いた虎は、 <この世で、おれさまよりおっかねぇ”古屋のもり”ちゅうもんがいるのか、こうしちゃぁおられん>と、そろりそろり逃げようとしたと。 すると、ちょうどその晩、馬泥棒も馬を盗みに来ておって、馬小屋の天井にしのびこんでいたんだが、逃げ出したのが、てっきり馬だと思うて、その背にとび乗った。 さぁ、虎はたまげた。 ”古屋のもり”につかまったと早合点(はやがてん)して、どうにか振り落とそうと、とびはね、とびはね逃げ走った 馬泥棒は馬泥棒で、落とされてなるものか、と、ぎっちりしがみついていたんだと。 そのうちに夜が明けはじめて、あたりが明るくなってきたら、今度は、馬泥棒が魂消た。 「ぎゃ、馬じゃねがった。と、虎じゃぁ。こりゃぁおおごとだぁ、く、食われちまう」 何とかせにゃぁと虎の背で思案していると、行く手に木の枝が突(つ)ん出ているのが見えた。 馬泥棒は、しめたとばかりにとびついた。 ところが、木は枯木だったと。パリッと折れて、木の根っこにあいていた穴に落ちてしもうた。虎は、やっとのことで”古屋のもり”が離れたから、ほっとして歩いていると猿に出合うたと。 そこで虎が、おっかなかったこれまでのことを話したら、猿は、 「そんなもん、いるはずがねぇ」と本気にしない。 虎は猿を馬泥棒の落ちた穴へ連れていった。 猿は、暗い穴の中をのぞきながら、 「古屋のもりは、おれがつかまえてやる」と、長いシッポを穴の中にたらした。 そうしたら、穴の中にいた馬泥棒は上から綱がおりてきたもんだから、 「これは助かった」と、しっかり綱につかまったと。 猿は、下から引っ張られたので、穴の中に落ちそうになった。 あわてて 「古屋のもりにつかまった。助けてくれ―」とたのんだが、虎は、 「おれの話を信じなかった罰だ、ゆっくりつかまえてこいよ」と言い残して、どこかえ行っちまったと。 後に残された猿は、顔をまっ赤にして、どたばたもがいていたと。 そうしたら、しっぽが、ボッチリちぎれてしもうたと。 猿の顔が赤くて、しっぽが短くなったのはそれからだって。 どっとはらい。48『黄金(きん)の茄子(なす)』 ―新潟県― むかし、佐渡の小木(おぎ)という村に漁師のお爺さんとお婆さんが住んでおった。 ある日のこと、お爺さんが浜辺で若芽(わかめ)を採っていると、小さな舟が一艘(いっそう)流れ着いた。 中をのぞくと、美しい女(おな)ごが息も絶え絶えになって横たわっている。 「こりゃぁお気の毒にのう、一体何日波にもまれて来たのやら」 お爺さんは、その女ごを背負って我家へ連れ帰り、お婆さんと、やれ酒を飲ませ、やれカユを食わせ、と、かいがいしく介抱してやった。 やっと元気を取りもどした女ごは、爺さんと婆さんに 「私は島流し者で、もうどこへもいくところはありません、どうかここへ置いて下さい」と頼んだと。 二人は子供も無かったので、喜んで置いてあげることにした。 女ごは、島流しにあう前から、お腹(なか)に児(こ)を宿していたとみえ、月満(つきみ)ちて玉のような男の児を産んだ。 お爺さんとお婆さんは、孫まで生まれたので大層喜こび、大事にその児を育てた。 男の児がだんだん大きくなって七つ八つになった頃、家の軒先(のきさき)につばめが巣をつくった。日が経って、そのつばめに卵がかえり、親鳥がかわるがわるもどって来ては子つばめの口(くち)の中に餌(えさ)をやっている。 男の児はこれを見ると母親にたずねた。 「つばめでさえもふた親があるのに、どうしておらにはおっ母さんしかおらんの」 「父(とと)さんはあるのんだ。お前はの、大阪のお城のお殿さんの子だ。お殿さんには大勢のお后(きさき)がおっての、私は一番若くて美しかったからみんなより可愛がられた。それをほかのお后がねたんでわたしの部屋に萱(かや)の実を敷いた。殿さんが私のところへ来られて萱の実をつぶし、ピチッと鳴ったのを、みんなは私が『おならをした。無礼者だ。』とさわぎ、その科(とが)で私を島流しにしたのです。何日も流れ流れて死にそうになったときお爺さんとお婆さんに助けられたのです」 「屁をひっただけで島流しとはあんまりだ。殿さんに会って、おっ母さんを元の通りにしてあげるだ。大阪へ行かせてくれろ」 男の児は、たった一人で大阪へ旅立ったと。 大阪のお城に着いた男の児は、城のまわりをまわりながら、大声で、 「黄金(こがね)のなる茄子(なす)の種(たね)はいらんかぁ、金のなる茄子の種はいらんかぁ」と呼び歩いた。 殿さんはその声を聞きつけ、城の中へ呼び入れた。 「お前のその種は、本当に黄金(きん)の茄子がなるか」 「はい、なりますだ。けれど、生まれてから一度も屁をひらん女が蒔(ま)かんと、芽は出て来ん。また、また、蒔いても実がなるまで、屁をひってはならん」 「ばかをいうな。この世に一度も屁をこかん者があるか」 「けど、おらの母親は、こきもせんおならを、こいたちゅうて島流しにされた。どうしてや」 殿のさんは、目をまんまるにして男の子を見、 「うん、これがわが子であったか」 と気づいて大層喜び 「わしにはまだ世継ぎがない。我子と呼ぶのは、そちひとりじゃ。ぜひこの城に来てくれ」といって、すぐに母子を引き取って、男の児は殿さんのあとつぎになったそうな。 いきがさ―けた どっぴん 49『ばくち打ちと天狗(てんぐ)』―三重県― 昔あった話やんけ、あるところにの、一人息子でばくち好きな男がおったんて。 おやじからもろた銭もみなばくちに取られてしもて、一文無しになってよ、ふてくされて山ん中で昼寝しとったんやな。 ふと目ぇ覚ましてふところからサイコロふたつ出して、 「丁(ちょう)見たか半(はん)見たか」と、転がしてばくちの真似(まね)しとったやんけ。 その様子を、天狗が高い松の木のてっぺんから見下ろしとっての、 「あやつ妙なことを言いよったな。京(きょう)見たか大阪(はん)見たかぬかしよったが、あんな小さい四角なもんで、京や大阪(おおさか)が見えるんかいな」と天狗はつぶやいての、天狗はサイコロ初めて見たんで何も知らざったんや。 スルスルッと木から降りてきて、 「やい小僧、おめぇ、京見たか大阪見たかって生意気こいたが、そんな小(ち)っぽけなもんで、よう見えるんかい。おれにもちょっくら貸せやい」ちゅうたと。天狗は、もうサイコロが欲しゅうて、欲しゅうて、のどから手が出るほど欲しがったげな。 そこで、自分の大事な道具と取り替えてくれと、もちかけたっちゅうこっちゃ。 ばくち打ちの男は、さんざんサイコロを見せびらかして、 「天狗さんの道具ちゅうのは、どんなもんかい。品物をよう見た上での話にしょまいけ」ちゅと、天狗は、羽うちわと、隠れみのと、飛び羽(ばね)と、三つの宝物を惜しげもなく差し出して、いろいろ使い方を教えたげな。 ばくち打ちの男は、もう天下取ったような大喜びして、家へ持って帰ったげな。へて、ひとつ使(つこ)うてためしてみよ思うて、飛び羽でパッと飛び上がると、アッという間に、もう大阪のと真ん中に着いたげな。 ちょうど大阪の大分限者(おおぶげんしゃ)の鴻(こう)の池(いけ)の一人娘が、文金高島田(ぶんきんたかしまだ)に髪結(ゆ)うて振袖を着ての、化粧しとるところへ行き合わした。 「こうりゃ面白い、あれにいたずらしちゃろ」って、隠れみので姿見えんように忍び込んで、羽うちわであおいだげな。すると、 「ありゃありゃ、花嫁さんの鼻が天狗さんのように伸びたわ」ちゅうて、鴻池の人達が大騒ぎするので、また反対にあおぐと、今度は元のように鼻が低うに治(おさ)まったげな。  ばくち打ちの男は、こいつぁ面白いわい、と悦に入って、熊野の権現(ごんげん)さんの山のてっぺんに飛んで、自分の鼻をあおぎまくると、伸びるは伸びるは、鼻がズンズン伸びてって、東海道を通り抜けて、江戸の浅草まで伸びたちゅうぞ。 江戸では、日本一の高い鼻と言うことで、浅草の盛り場で見せ物にしたげな。 見物人が江戸中から押しかけて、ばくち打ちの男は大もうけしたげな。 それから、”花(鼻)のお江戸”ちゅうことになったと言うわい。 どっとはらい。50『ぼた餅(もち)ときなこ餅の競争』―三重県― むかしむかしあったげな。 ぼた餅さんとな、きな粉餅さんとがな、お手手つないでお伊勢参りすることになったげな。 ぼた餅さんも、きな粉餅さんもな、コロンコロン転がりながら行ったちゅうこっちゃ。 いくがいくがしとるうちに、ただコロンコロンと、でんぐり返ってばかりいたんでは、ちょっとも面白うないでな、きな粉餅さんがやな、ぼた餅さんに言うたというわさ。 「どうやろな、ひとつ、ふたりで古市(ふるいち)の宿まで競争しよやんか」 「そら、面白いがな。勝負に負けた方が宿賃持つことにしょまいか」と、相談がまとまったというこっちゃ。 こんなふうにな、ぼた餅さんが二つ返事で話に乗ってきたもんでな、 「それっ、一(いち)二(に)の三っ」ちゅうて、ふたりは六軒茶屋(ろっけんぢゃや)のあたりから、エッチラオッチラ足を早めてな、でんぐり返りながら大汗かいてな、歩き競べしたやんか。 それを道行く人が見てな、 「あれ見い、ぼた餅ときな粉餅とが競争しとるがな。コロンコロンでんぐり返っていくがな」と、その方を指さすもんやから「なんやなんや」とガヤガヤしてな、大勢人々がたかってきたげな。 「ぼた餅しっかり、負けんな、わいはぼた餅大好きやでぇ」と、ぼた餅さんに応援する人もあるかと思うと、 「きな粉餅がんばれ、わいはきな粉餅党やで」と、応援する人もあって、応援団のほうも必死で大ごとになったげな。 そんなふうになったんで、ふたりは「こらがんばらな」って、ぼた餅さんは小豆(あずき)をこぼしこぼし、きな粉餅さんは、きな粉をふりまきふりまき、コロコロコロコロ転がり急(いそ)いだげな。 初めは、ぼた餅さんもきな粉餅さんも大差のうて、抜きつ抜かれつやったげな。が、そのうちに、だんだんきな粉餅さんの方が遅うなってな、ぼた餅さんが宮川(みやがわ)の渡しに着いたころには、もう、よっぽど間(あいだ)があいたげな。 きな粉餅さんが息せき切ってな、やっとこさ古市の宿に着いてみると、 「遅いやんけ、おまんは何しとるねん」 ちゅうて、ぼた餅さんは、もう風呂へも入って浴衣(ゆかた)がけやったやんか。 きな粉餅さんは仰天(ぎょうてん)して、わけを聞いた。 「おまはん、どうしてそんなに速いん」 「わしかい、わしはな、あずき(歩き)つけとるで」 こう言うたげな。  もうしもうし米(こめ)ん団子(だんご)   早う食わな冷(ひ)ゆるど。51『しばられ地蔵(じぞう)』―東京都― 享保(きょうほ)三年というから、一七一七年、今から二六六年も前のこと、江戸、つまり、東京でおこったことだ。 本所の南蔵院という寺の境内に、石の地蔵様があった。 あつ―い夏のこと、越後屋の手代喜之助(きのすけ)が商いの木綿を背中いっぱいにかついで、南蔵院の前を通りかかった。「あっちぇいのう―。地蔵様の前で、ちょっくら休むとするか。」荷をおろして休んでいるうちに、つい、うとうとっとしてしまった。一時して、目をさますと、そばにおいた木綿がない。そこらじゅうをさがしたがどこにもない。商売物(もん)を盗まれたとあっては主人に叱られる。喜之助は顔をまっ青にして番所へとびこんだ。番所の役人がさっそく奉行所へ届けると、町奉行の大岡越前守が直々に調べることになった。 ところが越前守、奉行になったばかりだし何の手ががりもない盗みのこと、犯人の目星などとんとわからぬ。そこで一計を考えた。さっそく、役人をよび、「いや―しくも地蔵菩薩ともあろうものが、自分の前の品が盗まれたのを知らぬはずがない。ただちに地蔵を召し捕り、縄をかけて、江戸市中を引き回せ。」と申しつけた。 役人は奉行のいいつけだからしかたなく、しぶしぶ南蔵院へ行くと、地蔵様に縄をかけ、大八車にのせると、江戸市中を引き回した。なにしろ、物見高いは江戸の町人たち、盗人のうたがいで石の地蔵様がつかまったというので、われもわれもと地蔵様の後についてゆき、果ては、どんなお裁きがあるのかと、どっと奉行所へなだれこんだ。 ころを見計らった越前守、「門をとじよ―。」と命じ、大声で、「天下の奉行所へ乱入するとは不届千万。本来ならきつく罰っするところなれど、元はといえば木綿が盗まれたことにより生じたこと、よって、一人につき木綿一反の科料(かりょう)とする。ただちに持って参れ。」といった。町人たちはあっけにとられたがしかたがない。それぞれに木綿一反を持ってくると、自分の名前を書いて帰っていった。 越前守は喜之助を呼んで一つ一つの反物を調べさせた。そうすると、やはり、盗まれた反物がでてきた。それで、盗人がつかまり、いもづる式に、江戸市中を荒し回った大盗賊団も一網打尽(いちもうだじん)となった。  地蔵様も無事南蔵院へ戻り、大岡越前守も名奉行といわれるようになったそうだ。 そして、それ以来、盗難にあうと、南蔵院の地蔵様を縄でしばって願いをかけると、必ず盗まれたものがでてくるといわれ、だれいうとなく、この地蔵様を”しばられ地蔵”と呼ぶようになった。52『大工(だいく)と鬼六(おにろく)』―岩手県― むかし、あるところに、たいそう流れの速い川があったと。 何べんも橋を架(か)けたことはあるのだが、架けるたんびに押し流されてしまう。 「なじょしたら、この川に橋を架けられるべ」 村の人らは額(ひたい)を集めて相談したそうな。 「この近在で一番名高い大工どんに頼んだがよかんべ」 皆の考えがまとまって、その大工どんに頼みに行ったと。 とびっきり腕のいい大工どんは、仕事を引き受けたものの、どうも心配でならん。 そこで、橋架けをたのまれた川へ行って見たそうな。 川は、ごうごう音をたてて流れている。 「なるほど、流れがきつい上に川の幅(はば)も広と、きた。はてさて、これぁとんだ仕事を引き受けたわい」 岸にしゃがんで思案(しあん)しとったら、川に大きなアブクがブクブク浮んで、ザバ―と大きな鬼が顔を出した。 「おぉい さっきから何を思案しとる」 「うん、おれは今度ここへ橋架けを頼まれた大工だが、なじょしたらがんじょうな橋を架けられるかと思っていたところだ」 「とんでもねぇ、お前がいくら上手な大工でも、ここさ橋は架けらんねぇ。けんど、お前がその目ん玉をよこすならば、俺(おれ)が代(かわ)って橋を架けてやってもよかんべ」 「おれは、どうでもいいがの」 大工どんは、目ん玉よこせとは、あんまりにも思案のそとの話なので、なま返事をして家に帰ったそうな。次の日、川へ行って見ておどろいた。何んと、もう橋が半分ほど架かっておる。 また次の日、川へ見に行ったら、橋が立派に出来あがっとった。 向こうからこっちまで、それは見事な橋だったと。 大工どんがたまげてながめておると、川から鬼がザバ―と顔を出して、 「どうだ、こんな橋は人間には架けられんだろう。さあ、目ん玉よこせ」というんだと。 大工どんは、あわてて、 「ちょ、ちょっと待ってくろ、今、目ん玉をやると、鬼の橋の架け方を見ることも出来ん。おれも大工だ、せめてもう一日、こんな見事な橋の架け方を見ておきたい。」 「ほうか、んなら明日だぞ」 鬼が川の中へ沈(しず)もうとしたら、  「ちょ、ちょっと待ってくろ、お前は、鬼の世界でも、さぞかし名のある大工にちがいない。是非(ぜひ)名前を教えてくろ」 鬼は、名のある大工と言われて嬉(うれ)しくなった。 「俺の名前を当ててみろ、そしたら目ん玉は勘弁(かんべん)してやろう。明日までだぞ」 こう言って消えたと。 大工どんは、 「名前なんぞ分かる訳けねぇ、どうしたらよかんべ」と、独(ひと)り言(こと)を言(い)いながら当てもなく歩いとると、いつの間にやら山ん中に入っとったと。 山ん中を、あっちこっち歩いとると、遠くから子供の唄(うた)う声が聞こえてきた。   早く 鬼六(おにろく)ぁ   目ん玉ぁ   持って来(こ)ばぁ   ええなあ 大工どんはそれを聞くと、 「ほうか、鬼の名前は鬼六か」と気付いて、家に戻ったと。 さて、次の日、 大工どんが川の橋のところへ行くと、すぐに鬼が浮いて出た。 「やい、早く目ん玉ぁよこせ。それとも、俺の名前を当てられっか?」 鬼は、そう言って、にかり、にかり笑ったと。 「よし、大工が目ん玉を取られては仕事になんねぇ、お前の名前を当ててやる」 「いいか、お前の名前は強太郎だ」 大工は、口から出まかせを言ってやった。 鬼は、子供のように喜こんで 「うんにゃ、違う」 「そんならお前は、鬼のおん吉(きち)」 「うんにゃ、違う違う」 「そんなら、つの兵衛(べえ)」 「今度は当てるぞ いいかぁ」 大工どんは息をいっぱい吸い込んでから、うんと大きい声で 「鬼六っ!」と叫んだ 鬼は、ぽかっと消えて、それっきり姿を見せんようになったと。  どんとはらい。53『おしずとたぬき』―山口県―  戦国(せんごく)のころ、青海島(おうみしま)に漁師を父にもつ、おしずという八つになる気だてのやさしい娘がいた。 ある日のこと、この島にきた一人のかりうどが子だぬきを生けどった。これを見たおしずは、かわいそうに思って、お父にせがんで、これを買ってもらい、うら山に逃がしてやった。子だぬきは、何度も何度も頭をさげて山おくの方へ消えた。 それから十年、戦に破れて、傷をおった一人の若い落武者が、この島にのがれてきた。おしずは親身になってかんごをした。若者の傷はうす紙をはぐようになおっていった。 こうしたことから二人はめおとになった。それもつかのま、追手のきびしいせんさくは、この島まで追ってきた。お父はある夜、こっそり二人を舟で九州へ逃がしてやった。 ある寒い夜のこと、お父はいつものように浜からさびしく家にかえると、ふしぎにも家の中はあかあかとあかりがともり、ろばたの火ももえさかっていた。見ればそこには、十年前のあの子だぬきが、お父の好物のどぶろくをもってきてすわっていた。 それから毎日のように、たぬきはどぶろくを持ってやってきた。あるとき、おしず夫婦は、お父を迎えに、島にかえってきた。お父は、なが年すみなれた島を去ることになった。 いよいよ、舟出の日がきた。それはまん月の夜であった。たぬきは西円寺のうら山にかけのぼり、おや子三人をのせた舟の姿が、はるかかなたに消えるまで、涙をながしながらポンポコポン、力いっぱいに、自分の腹をたたきつづけた。 それからは満月のたびに、はらつづみがきこえるという。 おしずたちの船出した浜を しずが浦といっている。  これきりべったり ひらのふた。54『鬼と刀鍛冶(かたなかじ)』―石川県― むかし、能登(のと)の国(くに)の海辺(うみべ)の村に、刀鍛冶(かたなかじ)が暮らしておったと。 働(はたら)き者で、トテカ-ン、トテカ-ンという刀を打つ槌(つち)の音が聞こえない日はないほどだったと。 この刀鍛冶には娘が一人(ひとり)あった。 気立(きだ)ては優(やさ)しいし、器量(きりょう)もいいしで、まあず、いとしげな娘だったから、あちこちの村々から若者が「嫁にくれ、嫁にくれ」と、やってくるんだと。 刀鍛冶は、そのたんびに 「一番鶏(いちばんどり)が啼(な)くまでに、刀を千本作ったら嫁にやる」と言うていた。 若者たちは、それを聞くと、 「刀、千本なんて無理だ。一本だって作れやせん」ちゆうて、みんなすごすごと戻っていったと。 ある夜のこと、 見知らぬ若者がやってきて、娘を嫁にくれと言う。 刀鍛冶は、いつものように、  「一番鶏が啼くまでに、刀を千本作ったら嫁にやる」といいながら、よくよく見ると、姿もたくましく、りりしい若者であったと。 「刀、千本だな、わかった。夜明けまでにきっと千本仕上げてみせよう」 こう言うと、仕事部屋へ入って、さっそく、カ-ン、カ-ンと刀を作り始めた。 「どうせ、一晩に刀千本なんぞ作れるはずはない」 刀鍛冶は、気にもせずぐっすり寝たと。 夜明け近くになって、ふと目をさますと、カン、カン、カン、カンと刀を作る音が早くなっている。 「こ、こりゃぁただもんじゃぁないぞ」 刀鍛冶が、そおっと仕事場をのぞいて、腰が抜けるほどたまげた。なんと、そこにいたのは若者ではなく、鬼(おに)であったと。 鬼が、まっ赤(か)になった鉄(てつ)のかたまりを手でつかみ、口(くち)からブォ-、ブォ-ッと熱い息を吹きつけては鉄を引き延ばして、カン、カン、カン、カンと槌を打って、次から次へと刀を作っているんだと。仕事部屋には刀が山のように積まれていたと。 「このままじゃぁ、娘を鬼にとられてしまう、何とかせにゃぁ」 刀鍛冶は考えた。いそいでお湯をわかし、鶏(にわとり)小屋へかけこんで、鶏の止まっている木にお湯をジャ-とかけた。おどろいたのは鶏だ、急に足元が温(ぬく)くなったから、あわてて、 「ケケ、ロッコ-」と一声啼いた。 それを聞いた鬼は、 「しまったあ、一番鶏が啼いたか、エエイいまいましい。あと一本で千本だというのに。こうしてはおられん」 鬼は、出来上った刀を両脇(りょうわき)にかかえあげると屋根を跳(け)破って、海辺へ向って飛ぶように逃げ出したそうな。 刀鍛冶は、それを見ると、声を限りに叫んだそうな。 「お-い、お前のかたみに、刀、一本、おいてけや-い」 しばらくすると、海の彼方(かなた)から、刀が一本、ビュ-と飛んできた。 その刀には、”鬼人大王(きじんだいおう)・波平行安(なみのひらゆきやす)”と、鬼の名前がほってあったと。 それ以来この村を剣地(つるぎぢ)、つまり、昔は刀のことを剣(つるぎ)ともいっていたから、刀の地を意味する剣地というようになったんだと。 本当だよ、石川県鳳至郡門前町剣地(いしかわけんふげしぐんもんぜんまちつるぎじ)へ行ってごらん。村の人が、鬼の刀鍛冶の話をしてくれるから。 55『文福茶釜(ぶんぶくちゃがま)』―群馬県― むかし、あるところに爺さんと婆さんとふたりおって、貧乏暮らしをしとったと。 あるとき、婆さんが、  「爺さんや、今日は少しぬくいから買物に行ってくれませんかのう」と頼んだので、爺さんは町へ買物にいったと。 ところがお金(かね)をほんの少ししか持っていないのでたいした買物は出来んかったと。 で、帰りにとぼら、とぼら林の中を通り抜けておると狸(たぬき)に出合ったと。 「じいさん、じいさん、えらいしょぼくれとるなあ」 「しょぼくれたくもなるわい。これから寒うなるっちゅうに金は無いし、困ったことじゃ」 「ふんなら、おらが茶釜(ちゃがま)に化けてあげる、そいつをお寺の和尚(おしょう)さんに売りつけるといい」 「ほお? そんなことが出けるんか」 「出来るとも、三両には売れるさ」 「ほうか、ほうか、そんならお願ぇするか」 爺さんと狸はお寺の前(まえ)までやって来た。 すると狸は、くるっとひっくり返って、いい茶釜に化けたと。どこから見ても立派なもんだ。 爺さんは、そいつを風呂敷(ふろしき)に包んでお寺へ入って行った。 「和尚さん、和尚さん、珍しいもんを手に入れましたんで持って来ました。金(きん)の茶釜でこぜえますだが、買(こ)おてもらえんじゃろか」 和尚さんは手にとってながめまわし、指ではじいてみた。 「いい鳴音(なりね)じゃぁ、これは大(たい)したもんじゃ、もろうとく、いくらじゃな」 「へぇ三両では」 和尚さんは、値うち物じゃぁ仕方なかろうと三両で買ってくれたと。 「小僧や、小僧や、今晩はこの茶釜で茶をわかして飲むとしょう。よく磨(みが)いておきなさい」 「へぇ」 小僧は、いいつけどうりに、井戸端でゴシゴシたわしでこすっておったら、なんと茶釜がものを言ったと。 「痛てててて、これ小僧や、そろそろ洗え、尻がはげる」小僧はびっくりして、和尚さんのところへとんで行った。 「和尚さまぁ、茶釜がものを言ったぁ、『そろそろ洗え』って言ったぁ」 「そうか、いい茶釜だからな、音が響いてそう聞こえるんじゃ。磨くのはもうそれくらいにして湯をわかせ」 「へぇ」 小僧が水を入れて釜どに掛け、火をたきつけると、 「あちちちちい、これ小僧や、熱(あつ)いいからちょろちょろたけ」 小僧はまたまたびっくりして、和尚さんのところへとんでいった。 「和尚さまぁ、こんどは『熱いから、ちょろちょろたけ』って言ったぁ」 「そうか、値うちもんだからな、チンチンって音がそう聞こえるんじゃ。そろそろ湯を汲(く)むがいい」 「へぇ」 小僧が釜どへ戻ってみれば、茶釜から、みるみるうちに、足が出る、手が出る、尻尾がはえる。  「和尚さまぁ、大変だぁ」と呼んどるうちに本当(ほんと)の狸になって、ギャンギャン鳴いて、山へとんで逃げていったと。 いちが ぽんとさけた。日本语世界RBYSJ.COM2005.3